三叉神経痛は,顔面痛を主訴とする疾患全体の一部としてとらえることができ,同時に頭痛の一部としてもその疾患分類がなされている。広義的には三叉神経第1枝~第3枝が支配している領域の痛みであれば,その解剖学的な根拠からは三叉神経痛と呼んでも問題はないものと考えられる。ただし,その原因となる他の器質的疾患(歯科口腔外科,耳鼻科などの領域)を除外しておく必要はある。基準となる病名,分類は『国際頭痛分類 第3版』(13.脳神経の有痛性病変およびその他の顔面痛)に記載されている。
詳細な問診が必要である。痛みの部位,性状,トリガーの有無などが重要となるが,食事,歯磨きなどトリガーを有する発作性の短時間の痛みが純粋発作性と定義され,持続的な痛みと区別するが,双方の症状が混在することもある。いずれにしろ,痛みは一定期間後に寛解することが多く,1回の痛みのエピソードで安易に確定的な診断をすることは望ましくない。つまり,時間をかけて患者と向き合う姿勢が必要である。
国際頭痛分類に準じれば,3つの分類(典型的,二次性,特発性)のいずれかになるが,それらは画像診断までを含めての診断となるため,顔面痛を主訴として来院した患者に対して,直ちに細分化された診断名に到達することは困難である。前述の3分類はさらに細分化され,痛みの性状によって純粋発作性,持続痛という用語が使用されているが,本稿では実臨床現場に即して用語を簡略化し,「発作的な痛み(短時間)」と「持続的な痛み」に分類して述べる。
痛みが強ければ内服治療を導入すべきであるが,痛みの性状によって選択する内服薬は異なる。発作的な痛みには,テグレトールⓇ(カルバマゼピン)を処方するが,眠気,ふらつき,皮疹などの副作用があり,少量からの投与が推奨される。血管が三叉神経を圧迫して起こる,典型的三叉神経痛,純粋発作性と呼ばれる三叉神経痛にはテグレトールⓇが奏効することが多く,他の薬剤が無効であることが多い。よって,診断的治療という意味でもテグレトールⓇの投与は十分意義があるが,副作用には留意するべきである。
一方で持続的な痛みの場合,あまり激烈な痛みでなければ,初診の段階では通常の消炎鎮痛薬から処方しても問題はなく,効果があればいわゆる神経痛というものは否定的ととらえることもできる。持続的な痛みの次のステップとしては,リリカⓇ(プレガバリン)やタリージェⓇ(ミロガバリンベシル酸塩)を使用する。
特記すべき事項として,どのような顔面痛であったとしても,痛みが一時期で消失することもあり,いったん内服治療を導入した後に痛みが軽快した場合には,薬剤をそのまま継続することは推奨されない。たとえば発作性の三叉神経痛であれば,発作期,寛解期があるため,理論上発作期以外には内服治療は不要である。しかしながら,痛みが激烈でいつ来るかわからない,という恐怖感から薬を継続したいという患者の心理は十分尊重すべきで,その場合は可能な限り少量の薬剤で維持することが望ましい。また,1種類の内服が奏効しない場合には,他剤を追加処方するのではなく,できる限り切り替えを行うべきである。無効な薬剤の処方は,患者にとって利益にならないことを常に念頭に置くべきである。
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