「性同一性障害」は,DSM-5において病名が「性別違和」へと変更された。「性別違和」とは,もともとは指定されたジェンダー(gender:性別)に対する,その人の感情的認知的不満足を表す症状用語であったが,診断名としての「性別違和」は,さらに特異的に定義される。
診断名の「性別違和」とは,その人により体験または表出されるジェンダーと,指定されたジェンダーとの間の不一致に伴う苦痛を意味する。「体験または表出されるジェンダー」とは,その人の人生の体験の中で実感し,あるいは表出してきたジェンダーである。必ずしも反対のジェンダー(男性に対して女性,女性に対して男性)に限らず,「指定されたジェンダーとは異なる別のジェンダー」も含まれる。「指定されたジェンダー」とは,通常出生時に行われる,婦人科医や助産師によって指定される性別のことである。
なおICD-11においては,「性別不合」へと変更され,分類される章も「精神および行動の障害」から「conditions related to sexual health」に移動した。すなわち,ICD-11では,もはや精神疾患ではない。
性別違和は年齢により異なる表れ方をする。出生時の性別が女性の場合,思春期前には,男の子になりたいという願望を表出したり,男の子であると主張する。男の子の服装や遊びを好む。出生時の性別が男性の場合,思春期前には,女の子になりたいという願望を表出したり,女の子であると主張する。女の子の服装や遊びを好む。
成人においては,第一次および第二次性徴から解放されたいと望んだり,他のジェンダーの第一次および第二次性徴を得たいと望む。体験されたジェンダーの行動,服装,特徴を取り入れる。指定されたジェンダーとして,周囲の人にみなされることや社会で生活することに不快感を覚え,体験されたジェンダーとしてみなされ,生活したいと望む。
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