【質問者】伊東秀文 和歌山県立医科大学脳神経内科学講座教授
【失行症の症候内容や発現機序は,最近新しい展開を見せ始めている】
Liepmannの最初の論文以来,長年にわたって議論されてきた失行研究は,最近になってようやく1つの方向に動き出しています。各種画像の発達を契機に,より均質な失行症候が収斂されてきました。また変性疾患でも,単一光子放射断層撮影(single photon emission computed tomography:SPECT)などの機能画像の登場により,責任病巣が可視化できるようになり,診断基準にも失行症状が組み込まれるようになりました。こうした事情を背景に,失行症候の臨床的重要性は増しています1)。
従来,失行研究は観念や観念運動などといった古典的失行論で意匠された用語や概念に沿う形で行われてきましたが,最近は観念失行がapraxia of tool useや使用失行など,観念運動失行がgestural apraxiaやパントマイム失行などと称されることが増えました2)。その結果,「観念」や「運動」などの概念的な議論ではなく,「道具の使用動作(あるいはパントマイム)がなぜ障害されるのか」というように,具体的な現象について議論されるようになりました。
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