2月8日から3日間、米国ダラスで国際脳卒中学会(ISC)が開催され、急性期治療に関するランダム化比較試験以外にも興味深い知見が報告された。その1つがNeal S Parikh氏(コーネル大学、米国)による肝線維化と脳出血リスクの関係である。ASTやALTなどに著明異常を認めない例でも無症候性肝線維化の合併により、脳出血リスクが3倍弱高まっている可能性が示された。
肝硬変例における脳出血リスクの上昇はよく知られている。しかしそこまで至らない肝線維化の時点でも、非外傷性脳出血の血腫増大リスク上昇[Parikh NS, et al. 2020]、あるいは出血性梗塞リスク増加[Yuan CX, et al. 2020]が報告されている。
これらに基づきParikh氏らは、肝線維化と脳出血リスクの関係を検討することにした。解析対象は自主参加コホートであるUKバイオバンクに登録された、脳出血既往のない45万2994名である。急性肝炎の可能性がある例や血小板減少症も除外されている。これらを対象に肝線維化指標であるFib-4スコア(年齢・AST・ALT・血小板数から算出)と出血性脳卒中(脳出血・くも膜下出血)リスクの関係を検討した。
平均年齢は57歳、女性が54%を占めた。72%が高血圧を合併し、16%が抗血栓薬を使用していた。肝疾患既往があったのは0.6%のみ、肝線維化(Fib-4スコア>2.67)を認めたのは2%だった。またアルコール摂取量は、肝線維化群と非線維化群間に大きな差を認めず、メタボリックシンドローム合併率も30%弱で同等だった。
なお肝線維化陽性群のAST中央値は35IU/L(四分位範囲:28-51)、ALTが22IU/L(15-34)、血小板数は160千(137-186)と比較的正常だった。「脳出血リスクを懸念させるような(重篤な肝疾患を想起させる)値ではない」とParikh氏は述べた。
中央値9年間の観察期間中、1241例で出血性脳卒中を認めた。肝線維化群における発生率は0.89/1000例・年、非線維化群では0.30/1000例・年だった。肝線維化群の出血性脳卒中発症ハザード比(HR)は、未補正で3.24(95%信頼区間[CI]:2.53-4.15)、諸因子補正後も2.44(1.79-3.31)の有意高値だった。肝線維化群におけるHR有意上昇は、「脳出血」(2.23)と「くも膜下出血」(2.49)に分けて検討しても同様だった(カッコ内はHR)。
さらに肝疾患既往例を除外した解析でも肝線維化群におけるHRは2.43(1.78-3.31)、「血小板数<150千」除外後も2.71(1.92-3.85)だった(感度解析)。
Parikh氏は、肝線維化はその成因を問わず出血性脳卒中リスクを高めていると考えている。
なお本研究ではアポリポタンパクE(APOE)ε4、ε2と出血性脳卒中の関連も検討しているが、有意な相関は認められなかった。
本研究は、米国国立衛生研究所とフローレンス・グールド財団から資金提供を受けた。