新型コロナウイルス感染症に対する感染対策としてのマスク着用が、3月13日からは「個人の判断」に委ねられる。理由は「新規感染者数の減少傾向」とあるので、感染者数が今後さらに減った場合にマスク着用によるデメリットがマスク着用によるメリット(感染予防効果)を超える可能性を考慮しての判断だろう。長期間マスクを着用することで、こどもにおいて様々な身体的・心理的影響、特に言語機能・社会性発達など発育への影響がある可能性を不安視する声は多い。幸いにも、発達への明確な悪影響を示す報告はないように思うが、これも今後の研究でひっくり返るかもしれない。
マスクをするかしないか、その時々で適切な「判断」をするには、随時更新される健康情報を収集し、それを吟味し、判断するというヘルスリテラシーが必要となる。ただ残念ながら、今の日本人のヘルスリテラシーはあまり高くないことが国際比較研究で報告されている。意思決定を求められた際にストレスを感じてしまい、よく考えて自分で決めるよりも、他の選択肢の可能性を考えずにせっかちに判断して決定してしまったり、意思決定を回避する傾向にあるという研究もあるくらいなので、伝統的に意思決定があまり得意ではないのだろう。
そんな意思決定が苦手な人たちの中で、マスク着用が「個人の判断」に委ねられるとなった際に「自身が適切な判断をできるように適切な情報を収集しよう」と行動できる人は多くないかもしれない。結局、あまり考えずに「周りに合わせる」になってしまうのでは、と懸念する。
一方で、今後育ってくる若い世代は違うかもしれない。現在の学習指導要領は、自ら学ぶ意欲、思考力、判断力、表現力などの「新学力能力の育成」により重点が置かれている。「こどもの権利」の意見表明権(自分に関係のあることについて自由に自分の意見を表す権利)もこどもたちに少しずつ浸透してきている。
4月にはこども家庭庁が発足する。こどもたちが適切に判断するための材料となる最新の正しい情報をわかりやすく届け、こどもたちが取る判断を見守ることができる、そんなこどもたちを支える社会の実現に貢献していきたい。
森崎菜穂(国立成育医療研究センター社会医学研究部長、同センター成育こどもシンクタンク戦略支援室副室長)[新型コロナウイルス感染症][こどもの判断力]