2020年のコロナ禍中に公開されたフレデリック・ワイズマン監督のドキュメンタリー映画『ボストン市庁舎』1)は、コールセンターのシーンから始まり、エンドロール中も電話対応中のオペレーターの会話(家の前にとまっている鷹の目つきがおかしい、いつもと違うのが気になる、という相談)が流れながら終わる。これは市長が「困ったことがあれば、何でも私に相談してください」と公約し、市長直轄のコールセンターを設置したからである。あれだけe-mailやSNSが発達しているアメリカですら、コールセンターのニーズが高いことに驚く。
新型コロナウイルス感染症の発生以降、次々と自治体や保健所に電話相談窓口(=コールセンター)が設置され、流行が始まる度に電話が鳴りやまない状況が繰り返された。東京都の場合、各保健所のコールセンターに加え、新型コロナ・オミクロン株コールセンター、発熱相談センター(受診相談専用4回線・医療機関案内専用3回線)、自宅療養サポートセンター(通称、うちさぽ東京)、自宅療養者フォローアップセンター、宿泊療養申込窓口、陽性者登録センター問い合わせ窓口、新型コロナウイルス治療薬等コールセンター、新型コロナウイルスワクチン副反応相談センター等、といったコールセンターが設置されている2)。電話が苦手な若者が増え、保健所からの疫学調査や健康観察の電話に出ない人も多いのに、なぜかコールセンターは盛況なのは、不思議なことだ。5類定点把握疾患への移行が決定した現在、これらはうまく店じまいしていけるだろうか。
第7波まで繰り返されてきた「電話が鳴りやまない状況」や、「言った・言わない」の苦情対応を踏まえ、当保健所では、ついに特設フリーダイヤルを設置、人員体制を強化し、音声ガイダンスによる振り分けを可能とするとともに、録音機能を搭載した。これにより第8波の間、ほぼ全ての入電に対応でき、本当に医療の相談が必要な人が医療職につながるようになった。それ以上に、鳴りやまない呼び出し音や受話器越しの怒鳴り声でメンタル不調になる職員が減ったことが、最大の成果だと言えるだろう。
今後このような取組が広がり、第2波から第3波までの保健所を撮影した日本のドキュメンタリー映画『終わりの見えない闘い』3)は、もはや絶滅した「電話の鳴りやまない保健所」の映像記録として価値を増すこととなるのを祈る。
【文献】
1)映画『ボストン市庁舎』オフィシャルサイト.
https://cityhall-movie.com/
2)東京都福祉保健局:新型コロナ保健医療情報ポータル, 相談窓口.
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/soudan/index.html
3)映画『終わりの見えない闘い 新型コロナウイルス感染症と保健所』オフィシャルサイト.
https://www.phh-movie.net/
関なおみ(東京都特別区保健所感染症対策課長、医師)[新型コロナウイルス感染症][コールセンター業務]