直接経口抗凝固薬(DOAC)はワルファリンと異なり頻回の用量調節は不要だが、腎機能が一定以上低下した例では「減量」や「処方回避」が必要となる。しかし既存の報告では約4%がこれを適切に実行できておらず[Steinberg BA, et al. 2016]、その理由としてクレアチニン・クリアランス(CrCl)に当てはめるべき基準値を推算糸球体濾過率(eGFR)で判断している可能性が指摘されている[Jason GA, et al. 2018]。
また、適切な「減量」「処方回避」を実施しなかった場合の転帰は不明だという。
そこでブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)のRen Jie Robert Yao氏らは、腎機能をCrClではなくeGFRで評価した場合に生ずる不適切な「減量」「処方回避」率とその後の転帰を検討し、JAHA誌に報告した(3月9日付)。腎機能低下例ではeGFRで評価すると、約4割の患者に対し「過量処方/禁忌例への処方」となる危険性があるようだ。簡単に紹介したい。
解析対象は米国全国AFレジストリ"ORBIT-AF Ⅱ"に登録された、DOAC服用下の8727例である。
年齢中央値は71歳、CHADS2スコア中央値は2、HAS-BLEDスコアは1だった。
また27.6%が抗血小板薬を併用していた。
これらを対象に、基準値をCrClに当てはめた場合に減量(リバーロキサバン)や処方回避(ダビガトラン、アピキサバン)すべき患者群をeGFRで評価した場合、どれほど判断を誤るか検討した。
すると腎機能正常例まで含む全例ではeGFR(MDRD)評価により、CrCl評価ならば「減量」「処方回避」となった患者の8.8%を見逃すことが明らかになった。
さらに「CrCl<60mL/分」(Cockcroft-Gault)だった腎機能低下例2184例に限れば、「減量」「処方回避」見逃し例の割合は40.3%に跳ね上がった。
ではこのような「減量」「処方回避」見逃し例(全体の3.9%[341例])の1年後の転帰はいかに? 「心血管系死亡」リスクを適正用量DOAC服用例と比べると、ハザード比(未補正)(HR)は3.77の有意高値となっていた(95%信頼区間[CI]:1.92-7.38)。腎機能低下例に限っても、同様にHR2.72(95%CI:1.23-6.01)の有意高値だった。
これらの結果をYao氏らは、DOAC使用例の腎機能評価におけるCrCl使用の重要性を(再)強調するものだと考察している。
ORBIT-AF ⅡレジストリはJanssen Scientific Affairs, LLCから資金提供を受けている。ただし解析について開示すべき利益相反はないとのことである。