先行感染(胃腸炎,上気道炎)の1~2週後に急性に発症する運動優位多発ニューロパチーであり,自己免疫性機序が推定されている。年間発症率は人口10万人当たり1~2人である。フィッシャー症候群は外眼筋麻痺,運動失調,腱反射消失を三徴とする関連疾患である。
先行感染後1~2週で急性に発症する四肢麻痺性疾患であり,典型例の臨床診断は比較的容易である。四肢の腱反射は消失する。ギラン・バレー症候群は現在,古典的脱髄型と軸索型の2病型に大別されており,脱髄型では四肢の感覚障害を伴うが,軸索型は純粋運動型を呈することが多い。わが国ではこの2つの病型はほぼ同頻度である。
軸索型においては,Campylobacter jejuni外膜に発現するガングリオシド様構造に対する抗体が,運動神経軸索のガングリオシドと交叉反応するという,分子相同性による発症機序がほぼ解明され受け入れられている。脱髄型はサイトメガロウイルス,EBウイルス感染後の発症が多いが,標的分子は同定されていない。また,ジカウイルス,新型コロナウイルス感染後は,脱髄型であることが報告されている。
神経伝導検査が最も有用な補助検査であり,脱髄型では伝導遅延・ブロック,軸索型では伝導遅延を伴わない複合筋活動電位振幅低下がみられる。脳脊髄液蛋白上昇は両病型ともに高頻度に認められるが,疾患特異的ではなく,発症初期には正常のこともある。軸索型では血清抗ガングリオシド抗体(抗GM1,GD1a,またはGalNAc-GD1a)が陽性となることが多い。フィッシャー症候群では92%で抗GQ1b抗体が陽性となる。
四肢麻痺を呈する急性疾患であり,早期の診断と免疫学的治療(免疫グロブリン療法または血漿浄化療法)の開始により,軸索変性による後遺症を抑制することが重要である。単相性疾患であり,発症3週までが免疫学的治療の適応となる。
副腎皮質ステロイド単独療法の有効性は否定されている。約20%の患者では呼吸筋麻痺のために人工呼吸を要する。呼吸筋麻痺,球麻痺,自律神経症状(血圧・脈拍の急激な変動)がある場合には集中治療室での管理が望ましい。ギラン・バレー症候群の急性期死亡率は約5%であり,肺炎,肺塞栓,不整脈が主な死因であるため,急性期合併症の対処が生命予後に大きく影響する。
基本的に単相性の疾患であり,極期を越えれば改善していく可能性が高いが,約20%は半年後に独立歩行に至る回復に到達しないことを伝える。
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