世界保健機関(WHO)の予防接種に関する専門家の戦略的諮問グループ(Strategic Advisory Group of Experts on Immunization:SAGE)は3月28日、オミクロン株の影響と集団レベルの高い免疫を反映し、新型コロナワクチンの使用優先順位のロードマップを改訂した1)。改訂版では、ワクチン接種の優先使用グループとして、高、中、低の3つを設定している。これらの優先順位は、主に重篤な疾患や死亡のリスクに基づいており、ワクチンの性能、費用対効果、プログラム上の要因、地域の受容性を考慮している。重要なのはその国特有の状況と年齢層ごとの健康と幸福を考慮することであり、特に小児の定期接種を犠牲にすべきではないことが強調されている。
優先度の高いグループには、高齢者、重大な合併症を持つ若年者、免疫不全状態の人、妊婦、医療従事者が含まれている。このグループに対しては、半年から1年後の追加ブースターを推奨している。優先順位が中位のグループには、健康な成人と合併症のある小児および青少年が含まれる。このグループに対しては、一次接種と最初のブースター投与を推奨している。このグループではブースターの追加投与は安全だが、公衆衛生上の「見返り」が比較的少ないため、SAGEでは推奨していない。
優先順位の低いグループには、健康な小児および青少年が含まれる。初回およびブースター投与は安全かつ有効である。しかし、疾病負担が少ないことを考慮し、SAGEはこの年齢層へのワクチン接種を検討している国に対し、疾病負担、費用対効果、その他の健康上またはプログラム上の優先事項などの状況要因に基づいて決定するよう促している。
日本でもこのロードマップの報道はなされているが、細かいニュアンスが伝わらず、特に、「2回以降『推奨せず』WHOが指針見直し」2)「健康な子供必要なし」3)などの見出しは、誤解を招きかねず注意が必要だ。WHOがリスクの低いグループでの接種を推奨していないのは、あくまでも国の疾病負担と費用対効果上のバランス、従来の子ども向けのワクチンとの競合を避けることを考慮したためである。後者は特に途上国で小児の定期ワクチンを犠牲にして新型コロナワクチンを接種することへの警鐘と受け取るのが妥当だろう。安全性について繰り返して強調していること、妊婦が優先度の高いグループに入っていることもポイントだ。
またSAGEは、初回接種から2価のmRNAワクチンを使用することを勧告しており、これは日本も取り入れるべきだと考える。
【文献】
1)WHO:SAGE updates COVID-19 vaccination guidanc.
https://www.who.int/news/item/28-03-2023-sage-updates-covid-19-vaccination-guidance
2)AFP BB News:WHOが指針見直し 健康な成人のワクチン追加接種、2回以降「推奨せず].
https://www.afpbb.com/articles/-/3457564
3)ロイター通信:WHO、コロナワクチン勧告を修正 健康な子供必要なし.
https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-who-idJPKBN2VU1GQ
鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]