コロナ後遺症は,わが国だけでも数百万人いるのではないかと推計されています。そのコロナ後遺症に対して,上咽頭擦過療法の有効なケースが少なくない,ということは一般に知られるようになってきました。一方で,上咽頭擦過療法を施行してくださる医療機関が少なく,上咽頭擦過療法を受けることができない地域がまだまだ多いということが課題になっています。また,地域に施行できる医療機関があっても,症状がそれなりに重いコロナ後遺症患者さんは長く歩くことで急激に症状が悪化してしまうために,そこまでたどり着くことができない場合がよくあります。
さらに,コロナ後遺症の診療を断る医療機関がまだまだ多いのが実情であり,「コロナ後遺症難民」が多く発生している現在,本書をひもとかれた先生方によって上咽頭擦過療法が導入されれば,疾患に悩む患者さんたちの希望になることは間違いありません。
当院の患者さんで,複数の方が自死されました。強い症状があるのに,どの医療機関も診察すらしてくれない,治療を受けられないとなれば,自死のリスクは大きくなってしまいます。大げさではなく,上咽頭擦過療法の導入が患者の希望につながり,自死の予防,救命につながるケースは少なくないだろうと考えます。
本書は,上咽頭擦過療法の普及に力を尽くしてこられた第一人者であり,内科医でもある堀田修先生による,上咽頭擦過療法の導入のための貴重な資料です。堀田先生が内科医であることからもわかる通り,耳鼻咽喉科医だけでなく,他科の医師でも十分に上咽頭擦過療法を導入できるよう,工夫された内容になっています。内視鏡を用いないで行うことができる,シンプルな上咽頭擦過療法の導入法を,動画付きで非常に丁寧に説明した,現時点における指南書の決定版と言えます。