感染性胃腸炎という診断名は多種多様な原因によるものを包含する症候群であり,嘔気・嘔吐,腹痛,下痢,発熱などを症状とする。臨床現場ではウイルス性胃腸炎が多い。ロタウイルスワクチンの定期接種化により,補液や入院を要するロタウイルス胃腸炎は激減している。
嘔吐,腹痛,下痢をきたす疾患は胃腸炎とは限らない。自分で症状を訴えられない乳幼児の場合,急性腹症や消化器系以外の疾患を常に念頭に置き,丁寧に診察することが重要である。周囲で同様の症状を呈している者がいるかや,最近の食事内容について確認する。
ノロウイルスは11~1月,ロタウイルスは2~4月,細菌性腸炎は夏場に多い。各地域の感染症サーベイランスも参考にする。胃腸炎と診断後,ウイルス性か細菌性かの判断をする。血便,40℃以上の発熱,強い腹痛があれば細菌性を疑って便培養を施行し,必要に応じて抗菌薬の投与を検討する。ウイルス性を疑う場合には,集団感染の発生など公衆衛生上の必要性がなければ治療方針も変わらないため,抗原検査は原則必要ない。なお,ノロウイルス迅速検査の保険適用は「3歳未満」などに限られるため,注意が必要である。
ノロウイルス胃腸炎の有症期間は平均1~3日で,有効な治療法はなく,対症療法を行う。
急性胃腸炎の治療においては,脱水の重症度評価を行うことが大切である。重度の脱水と評価した場合は経静脈輸液療法を選択する。重度の脱水を示唆する所見として,体重9%以上減少,反応性に乏しい,目が落ちくぼんでいる,頻脈,多呼吸,末梢冷汗,ツルゴール低下,などがある。中等度以下の脱水と評価した場合は経口補水療法を優先する。
制吐薬のナウゼリンⓇ(ドンペリドン)は有効との報告もあるが,胃腸炎の嘔吐は自然治癒することが多く,症例ごとに投与を判断する。整腸薬は下痢の期間を短縮する報告があり,筆者は投与している。
止痢薬については有効性のエビデンスはなく,イレウス等重篤な副作用の報告もあるため,原則投与しない。ロペミンⓇ(ロペラミド塩酸塩)は6カ月未満禁忌,2歳未満原則禁忌である。
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