最近,バロキサビルについて日本感染症学会より新たな提言が発表された16)。耐性変異(PA/I38X)が高率に発生することについて警戒を呼びかけているが,外来治療については,12歳以上の青年,成人について,バロキサビルをオセルタミビルと同等の推奨度に位置づけた。しかし,CDCの基準とは異なり,外来患者に合併症がある場合や基礎疾患悪化が認められる場合に,オセルタミビルによる治療を勧奨することは記載されていない。また,エビデンスがないとしつつも,重症患者(入院患者)と免疫不全患者にバロキサビルの治療を可能とした。12歳未満の小児は,従来と変わらず,慎重な投与適応判断が必要とした。
提言では,国立感染症研究所のサーベイランスで,バロキサビルの耐性変異の検出数が減少したとしているが,変異ウイルスの拡大が問題となった2018/19シーズンから翌2019/20シーズンのバロキサビルの売り上げは98.4%も減少し17),その後はインフルエンザ流行がないので,耐性変異の減少は,単にバロキサビル使用量激減の反映というのが,大多数のインフルエンザ専門家の見解である。
日本が世界に先駆けて完成させたインフルエンザ診療体制は,世界に誇るべきものであり,WHOも重症患者とハイリスク群には,オセルタミビルによる早期治療を徹底する方向に舵を切った。一方,CDCは,バロキサビルの臨床効果はオセルタミビルと同等であると認め,健康に問題のない成人・小児の外来患者には,オセルタミビルなど3種のNAIとともに,バロキサビルの治療を認めた。しかし,入院患者,免疫不全患者,妊婦の治療には,「バロキサビルは使用しない」とした。
日本感染症学会の提言では,データをもとに勧奨/非勧奨を決定するCDCとは異なり,エビデンスはないとしつつ,成人の重症患者,免疫不全患者に,バロキサビルを治療薬として認めた。バロキサビルの耐性変異は,A(H3N2)ウイルス患者に特に高率に検出され,成人で9.7%18),小児で23.4%19)〜60%16)と報告されている。筆者は,成人であっても,免疫不全患者,高齢者,基礎疾患を有するハイリスク患者では耐性変異の影響が懸念されるので,バロキサビルの使用は,CDCの基準が妥当と考えている。
【文献】
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