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[緊急寄稿]WHOインフルエンザ治療ガイドラインと米国CDCの抗インフルエンザ薬選択基準(菅谷憲夫)

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  • 2. 米国CDCによる抗インフルエンザ薬の選択

    米国では2022年末に,新たな抗インフルエンザ薬選択基準がリリースされた2)9)。オセルタミビル,ザナミビル,静注ペラミビルの3種のNAIとキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬バロキサビルを対象とした。米国では,インフルエンザ合併症のリスクのない健康な外来患者にも,発症48時間以内であれば,抗インフルエンザ薬治療を考慮することを認めており,わが国の対策を考える上で,参考になる点が多い。

    (1)外来患者の治療

    米国では,肺炎,気管支炎などのインフルエンザ合併症のない外来患者には,3種類のNAIか,あるいはバロキサビルによる治療を勧奨した。また,インフルエンザが疑われるが,リスクのない外来患者には,発症後48時間以内であれば,SARS-CoV-2やその他の原因も考慮する必要はあるが,臨床診断で(検査なしで)抗ウイルス薬治療を考慮することができるとした。

    外来患者であっても,肺炎などインフルエンザ合併症がある場合とハイリスク患者で基礎疾患悪化が認められる場合は,オセルタミビルによる治療が勧奨された。オセルタミビル推奨の理由はWHOと共通で1),入院と死亡の防止効果が証明されているからである。

    オセルタミビルはB型インフルエンザに対して効果の低いことが知られている10)。12歳以上のハイリスクの外来患者を対象にしたランダム化比較試験(randomised controlled trial:RCT)では,B型インフルエンザ患者に対する症状改善時間は,バロキサビル群がオセルタミビル群よりも,有意に短縮したこと(27.1時間)が付記された11)。ただし,B型インフルエンザ患者にバロキサビルの治療を勧奨はしていない。

    CDCではオセルタミビルを高く評価しているが,その根拠は,小児を対象としたRCTのメタアナリシスで12),発症から48時間以内に治療を開始すると,症状の持続期間が18時間短縮し,喘息児を除外すると30時間も短縮され,中耳炎のリスクも34%減少した点にある。成人のRCTメタアナリシスでは13),発症から36時間以内に治療を開始すると,症状の持続が25時間短縮され,下気道合併症のリスクが44%減少した。

    (2)入院患者(重症患者)の治療はオセルタミビル

    入院患者にはオセルタミビルが勧奨され,診断確定を待たない早急な治療開始が強調された。入院時にオセルタミビルを開始すると,入院期間が短縮し死亡リスクを減少させる可能性があるが,バロキサビルとザナミビルには,入院患者治療には十分な有効性のデータがなく,静注ペラミビルはデータが不十分なので勧奨されていない。この点はWHOと共通である1)

    (3)免疫不全患者の治療はオセルタミビル

    免疫不全患者では,NAI,特にオセルタミビルによる治療が勧奨された。免疫抑制状態では,インフルエンザウイルスの複製(replication)が長期化し,治療中または治療後に耐性出現のリスクが懸念されるため,バロキサビルの使用は勧奨されない。

    (4)妊婦の治療はオセルタミビル

    妊婦と産後2週間までのインフルエンザ治療には,安全性,有効性が確認されているオセルタミビルが好ましいとされた14)。バロキサビルは,妊婦での有効性,安全性のデータがないので,勧奨されない。

    (5)NAIとバロキサビルの併用の有用性はない

    作用機序の異なるNAIとバロキサビルの併用は相乗効果が期待されたが,入院患者を対象としたRCTで15),NAI単独治療と,臨床症状改善時間に有意差がみられなかった。また抗癌剤の治療を受けていた2名の患者でdual antiviral resistance(バロキサビルとオセルタミビルに対する2重耐性,PA/I38XとH275Y)が出現した。

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