溺水とは,液体への浸漬あるいは浸水の結果,液体が気道内に吸引されて窒息をきたし,呼吸機能障害へと進む過程であり,溺水により死亡したものを溺死と呼ぶ。溺水により低酸素血症となり,脳など複数臓器が損傷する可能性がある。溺水の原因となった外傷や病態の評価が重要である。
溺水の予後を決定する最も重要な因子は酸素化能低下の程度とその持続時間である。
病歴聴取では,発生時刻,場所,状況,浸水時間,水温,既往症,飲酒の有無,来院までの処置について聴取する。特に,てんかん,不整脈,低血糖等の意識障害を引き起こす既往歴や状況の聴取は重要である。サーフィン等の水上スポーツや水没した乗り物に乗っていた場合,飛び込みの場合には頸椎損傷や頭部外傷の可能性がある。わが国では高齢者が入浴中に溺水となるケースが多い。以前は溺水の起こった場所が高張性の海水か,低張性の淡水かで分類されたが,治療内容や予後に影響せず,臨床的な重要性は認められないため,区別は不要である。
通常のバイタルサイン測定に加えて,低体温,頸椎損傷や頭部外傷などの外傷,脳血管障害や心疾患合併の有無を精査する。胸部聴診では注意深く湿性ラ音の有無について評価する。
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