視神経疾患の鑑別を表1に示す。視神経乳頭所見や視野のパターンでは視神経疾患の診断はできないので,表1に示す疾患を念頭に既往歴,家族歴,投薬歴や臨床経過,眼窩MRI所見,採血を行って診断していくことになる。
近年は視神経脊髄炎(neuromyelitis optica spectrum disorders:NMOSD)の疾患概念が確立されている。NMOSDの視神経炎にはステロイドパルス治療が行われるが,ステロイド抵抗性の場合は早めに血液浄化療法を実施することが推奨されている2)。NMOSDでも抗アクアポリン(aquaporin:AQP)4抗体陽性例の診断は容易であるが,陰性例での診断にはしばしば他の疾患が含まれる可能性がある。
レーベル遺伝性視神経症はミトコンドリア点変異があり,後天性に発症する視神経症であるが,典型例はしばしば両眼性に中心暗点を呈するため視神経炎と誤診される。最近は,レーベル遺伝性視神経症の症例がNMOSDと診断され血液浄化療法を施行されている例も散見する。レーベル遺伝性視神経症では発症時に眼痛はなく,MRI所見は正常であり,片眼性もしくは両眼性に中心暗点を呈する場合が多い。男性例,若年例が多いが高齢者まで発症する可能性があり,また家族歴がない症例も多い。
診断はミトコンドリア遺伝子異常の検査であるが,現段階では保険適用がなく,容易に検査が行えないことも診断を難しくしている一因である3)。抗AQP4抗体陰性のNMOSDの診断の際には注意を要する。
うっ血乳頭は頭蓋内圧亢進によって起こる乳頭の腫脹(papilledema/choked disc)である。うっ血乳頭例の自覚症状としては,視蒙〔両眼が一過性(数秒)眼前に霧がかかったようになる〕や一過性視力障害により,受診することが多い。初期には視力は正常であり,経過が長く,視神経軸索が障害されれば視力障害が出現し,いったん視力低下を自覚すると視力障害および視野障害の進行は早い。視野はうっ血乳頭の初期には正常であるが,その後軸索の膨張により乳頭縁の視細胞が側方へ圧排されるためマリオット盲点の拡大がみられ,さらに進行すると視野欠損をきたす。また,頭蓋内圧亢進により両眼のごくわずかな外転神経麻痺により内斜視をきたし,複視を訴える症例もある。
頭部MRIで明らかな占拠性病変がある場合は,うっ血乳頭の原因の診断が容易であるが,特発性頭蓋内圧亢進症や静脈洞血栓症では通常のMRIによる診断はつきづらい。
MRIで頭蓋内圧亢進症状を疑う所見としては,眼窩内視神経の蛇行,眼球後部の平坦化,cerebrospinal fluid(CSF)ringの拡大(CSF ring幅>2mmあれば拡大ととる),トルコ鞍空洞がみられる場合は,頭蓋内圧亢進と考える4)。
CSF ringの拡大はしばしば視神経周囲炎と診断されていることもあるが,造影MRIを施行するとCSF ringの場合は高信号を呈さないので鑑別は可能である。
当院で経験した症例を提示する。
52歳,女性。右眼が数秒~数十秒の間白くまぶしく見えるため眼科を受診し,視神経乳頭浮腫を指摘された(図4)。頭痛の自覚はなし。視力右(1.2)左(1.2)と正常。視野正常。眼窩MRIで占拠性病変はなかったが,眼窩内視神経の蛇行,眼球後部の平坦化,CSF ringの拡大(図5a),眼窩内視神経の蛇行,眼球後部の平坦化(図5b),トルコ鞍空洞化がみられた。造影MRIで上矢状静脈洞付近に髄膜腫があり(図5c),上矢状静脈洞の狭窄による脳静脈洞閉塞症による脳圧亢進をきたした症例であった。