2023年5月8日から5類に移行した新型コロナウイルス感染症。もはや感染者の全数さえわからない状態になったが、3年前は逆にPCR検査が追い付かず、全数把握自体が不可能だった。
2020年4月1日、東京医科歯科大学の学長に就任した際の全学への挨拶で、「首都東京にある医療系国立大学としてコロナ対応に背を向ける選択肢はない。正面に立つ医学部附属病院を他の施設は応援すること、全学を挙げて取り組む協力を」と呼びかけた。翌2日には最初のコロナ患者が入院し、コロナとの闘いが本格的にスタートした。特に留意したのは、ロジスティクスだった。
太平洋戦争当時、ガダルカナル島における戦いで、前線の兵士の死者のうち過半数が餓死であり、戦死ではなかったということはよく知られている。その原因はロジスティクスの軽視だったとされている。
その教訓に学び、コロナとの闘いは、前面に立ち生命の危険を伴う可能性もあった医療者を守ること、即ちロジスティクスの重視にあると考えた。
まずは後方支援を固めること。そのため、監督官庁の支持を得るべく、4月3日に文部科学省の幹部への挨拶回りに行った。本来は国立大学の学長には辞令交付があるのだが、それも中止となり文部科学省は閑散としていただけに、幹部は一様に時間を割いて、「予算がないからできなかった、ということはないようにする」と励ましてくれた。
私はコロナとの闘いは短期決戦だと想定し、800床ある附属病院の400床を一般診療に、200床はコロナ対応に、コロナ対応は2倍の労力がかかるはずなので残り200床は空床にして、収入減も1カ月なら内部留保で賄えるだろうという計算をした。
4月10日にロンドン在住の本学理事に宛てたメールには、「東京の感染者数は189人で過去最高となりました。本日現場を視察しましたが、もはやコロナ病棟とICUは戦場のようです。廊下にベッドがあり、デイルームに椅子が積み上げられたり、ナースステーションにはトリアージが記載されたホワイトボードが置かれたり……。まだ10人しか入院していない状態(人工呼吸器使用は1人のみ)ですので、先が思いやられます」と記している。
田中雄二郎(東京医科歯科大学学長)[新型コロナウイルス感染症]