4月に東京で開催された第31回日本医学会総会にて東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター・臨床疫学研究部講師の青木拓也先生が「COVID-19パンデミックにおける住民の受療行動とその要因の解明」という研究で〈日本医学会総会奨励賞〉を授与され、4月23日に受賞講演が行われた。本賞は内科、外科、基礎、社会医学の4領域で医学上優れた業績を挙げた若手研究者を表彰するもので、4年に1度しか開催されない日本医学会総会の目玉の1つと言ってよいだろう。そうした、日本の学術研究の晴れ舞台にAcademic GP、つまりプライマリ・ケアの臨床医として臨床研究に従事する医師の研究が選出されたことは本当に意義深く、同じ領域の仲間として誇らしく嬉しいニュースであった。
ゲノム、免疫、脳科学、再生医学など、医学の最先端研究は実験室医学を基盤としたサイエンスが牽引しているのは間違いなく、新たな診断法、治療法へと応用されてきた。近年では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のmRNAワクチンの開発がその象徴で、世界の多くの命を救うことになった。その一方、プライマリ・ケア、総合診療分野の研究は実験室医学よりも臨床現場をフィールドとした研究がメインであり、いわゆる臨床研究、臨床疫学といった領域となる。一定の曝露がある群とコントロール群の比較を行い、統計学的に有意な差が生じるかどうかを評価することで治療効果やリスクなどを明らかにすることが、その代表的な例と言ってよい。
日本の医学では伝統的に臨床疫学は治験というイメージが強く、ノーベル賞などに直結する実験室医学よりも地味であり、傍流に見られてきた。その中でも特にプライマリ・ケアは現場の実践であり、そこからデータを収集して新たな知見を得るという発想は、医学研究の中でもマイノリティであった。世界でも状況は変わらず、いかにプライマリ・ケア研究の質を高め広げるかという議論は、国際学会で繰り返し取り上げられるテーマである。
世界の中でもプライマリ・ケア領域の発展が遅れている日本において、今回のようにプライマリ・ケア研究の質の高さが医学界全体の中で評価された価値は小さくない。こうした成果に刺激され、臨床に従事しながら研究活動も継続するAcademic GPが青木先生に続いてさらに誕生してほしい。そして、彼らが日本の医学を牽引する存在として活躍する日が10年後、20年後に到来することを夢見たいものである。その頃には日本のプライマリ・ケアもより確立しているだろう。学会はそうした若手研究者をサポートするために、もっともっとエネルギーを注いでいきたい。これこそ未来への最高の投資である。
草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]