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【識者の眼】「Harald zur Hausen先生を偲んで」稲葉可奈子

No.5176 (2023年07月08日発行) P.62

稲葉可奈子 (公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長)

登録日: 2023-06-27

最終更新日: 2023-06-27

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ウイルス学者であるHarald zur Hausen(ハラルド・ツア・ハウゼン)先生が2023年5月28日に87歳でお亡くなりになられました。zur Hausen先生はみなさまご存じの通り、HPV(ヒトパピローマウイルス)が子宮頸がんの原因となることを発見し、その功績により2008年にノーベル医学・生理学賞を受賞されています。子宮頸がんの原因がHPVであることは今や医学の常識ですが、その研究は容易ではありませんでした。

zur Hausen先生は1976年に「HPVが子宮頸がんの原因となるのではないか」という仮説を発表しましたが、当時はまったく受け入れられませんでした。それでも諦めず、1983年についにHPV16が子宮頸がんの原因となることを突き止めました。

その後、数多の科学者の研究により、がん全体の5%の原因となる「HPV感染によるウイルス発がん」が解明され、それがついにはワクチン接種による予防につながるのです。HPVワクチンの開発にも様々な障壁があり、開発、実用化されたのは2006年。

zur Hausen先生をはじめとして、まさに世界中の研究者の方々による医学の進歩の賜物で、我々人類が史上初めて撲滅しうるがんが、子宮頸がんです。

オーストラリアでは2028年には子宮頸がんが撲滅されようとしています。米国でも子宮頸がん罹患率が下がりはじめています。WHOは子宮頸がん撲滅を世界の目標として掲げています。

日本では、子宮頸がん罹患者数が増えています。

女性が子宮頸がんにかからずに済む方法があり、日本人は誰でもその方法を享受することができる、にもかかわらず活用されていない。

このままでいいのでしょうか。

いいはずがありません。

ワクチンを無料で接種できる制度がある“だけ”、がん検診を無料で受けられる制度がある“だけ”では意味がなく、対象者が予防できることをちゃんと知り、接種して、がん検診を受けて、病気を予防することができて初めて意義があるのです。

子宮頸がんの患者さんの多くが「知っていたら予防したかった」と仰います。

ぜひ社会全体が一丸となって、国民の命と健康を守るためにもっと大きな熱量で伝えていければと思います。

具体的には、自治体、メディア、学校からもっと発信することと、かかりつけの患者さんのうち小6〜1997年度生まれの女性にはHPVワクチン、20歳以上の女性には子宮頸がん検診を受けたどうかお声がけ頂けましたら幸いです。

【協力】

江川長靖先生(ケンブリッジ大学病理学部、国際パピローマウイルス学会評議員)

【参考】

▶国立がん研究センターがん対策研究所公式サイト:子宮頸がんとその他のヒトパピローマウイルス(HPV)関連がんの予防ファクトシート 2023.
https://www.ncc.go.jp/html/icc/hpvcancer/index.html

稲葉可奈子(公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長)[HPV][子宮頸がんワクチン]

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