Vita brevis,ars vero longa…
“人身は朽ちても芸術は永遠”は迷訳(?)で,医術を習得するには人の一生はあまりに短く,寸暇を惜しんで日々研鑽にあたれと解するのが医療人には常識である。
中でも,病を得た者に触れ,そこから情報を得る診察法は,最も古い医の“art”の1つではないか。でも,こんなメッセージを残したヒポクラテスの時代に比べ,我々が学ぶべき医学は膨大な情報量となっており,身体診察は最近とかくなおざりにされがちだ。
そんな中,『心臓病Physical examination』(室生 卓監修)は,“循環器医の原点”とも言うべき内容がコンパクトにまとめられており,ワクワクしながら一気に読了できた。
心音は“ドキ(ッ)”,呼吸性分裂は“ドッキリ”など,確かにそう聞こえる。心音の“達人”ならではの表現で“art”がサラッと解説される。続いて不整脈との関係も深い脈の触診について,正しいやり方と血行動態の推察を含め得られる情報は多いことに感動。漢方の脈診にも触れてあることは新鮮だった。
通り一遍の解説だとあまり身が入らない,不勉強で飽きやすい性格の評者だが,頸部の視診,診かた・読みかたには心の“いいね!”ボタンを何度押したか…,それくらい秀逸であった(臨床編Ⅳと実践編Ⅲは個人的に“ヘビロテ”しまくっている)。しかも,“大事なことは二度三度言います”と言わんばかりに著者を変え,嫌味なく異なるテイストで登場するのも良い。心臓病は“頸”で見よ─と言わんばかりに頸静脈診察の重要性が丁寧に解説されている。一人一人の臨床経験では短期間に遭遇できないような所見が,百戦錬磨の“匠”のギャラリーとして,見事な写真や動画で提供されている。まさに“神講義かよ!”と思ってしまう。今まで心電図やエコーほか“胸”ばかりに注目していた自分が本当に恥ずかしい。
ほかに循環器診察の“王道”である心雑音による鑑別診断も,循環器専門医にも良い復習になるだろう。やはり,相撲や野球は解説を聞きながらのほうが面白く感じられるものだ。エコー像も思い浮かべながら,早く外来や病棟の実際の患者さんで聴きたくなった。
なお,同様の内容が“〜講習会”としてセミナー形式で提供されていることも知っている。評者の専門で言うと,心電図の読み方を解説したYouTubeが人気を博している。では,文字ベースで提供される電子コンテンツとしてのメリットは何か。まず,有形,つまり電子媒体として目に見える存在で“知”が提供されることに安心感がある。しかも,セミナーでは容易ではない「この部分だけもう一度」が,自分のペースで好きなだけできる点がありがたい。ダメ押し。講演会よりも紙面に残る雑誌や書籍などの執筆を重視するオジサンの戯れ言と言われるかもしれないが,音として“聞く”よりも,文字として“見る”ほうが身体に染み込んで定着度も高いと勝手に思っている。
忙しい現代人が効率よく達人たちから医術を学べる名著誕生の予感である。さぁ,日々の診療をブラッシュ・アップすべく本書の一読を勧めたい。“art”を手中に収めるために。