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【識者の眼】「敗血症(Sepsis-3)の診断は今のままで良いか?」小倉裕司

No.5178 (2023年07月22日発行) P.62

小倉裕司  (大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター准教授、Japan Sepsis Alliance(JaSA))

登録日: 2023-07-11

最終更新日: 2023-07-11

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2016年2月に欧州集中治療医学会(ESICM)/米国集中治療医学会(SCCM)から臓器障害を重視した敗血症の新たな定義(Sepsis-3)と診断基準が発表され、7年が経過した。

このSepsis-3により、敗血症の定義はそれまでの「感染症によって全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)をきたした状態」(Sepsis-1)から「感染に対する生体反応が調節不能となり、重篤な臓器障害が引き起こされた状態」へと変更され、敗血症の重症度も従来のsevere sepsisまで引き上げられた。また、敗血症の診断基準からはSIRS項目(体温、心拍数、呼吸数、白血球数)が消え、SOFA(sequential organ failure assessment)スコアの急性変化(ΔSOFA)が導入された。さらに、敗血症の早期診断スクリーニングに簡便なqSOFA(quick SOFA)が組み込まれた。

本稿では、Sepsis-3の診断に関する検証と課題をまとめ、今後を展望する。

(1)SOFAの6臓器システムの障害スコア(0〜4点)は1990年代に作成されたものであり、心血管系のカテコラミン使用の優先順位なども現状を十分に反映できていない。また、各スコアの転帰への影響に関しても臓器間で格差がみられる1)。欧米を中心に現在の臨床に合った臓器障害スコアSOFA2.0への改訂が求められており、各臓器障害のより均等なスコアリングが今後期待される。

(2)qSOFA(意識変容、血圧低下、頻呼吸のうち2項目以上で陽性)の診断精度は、他のスクリーニング(SIRS、早期警告スコアNEWS等)に比べ、院内死亡に対する特異度は高いが感度は低い。特に重症度が高い症例群では精度が落ちる2)。感度が低い(敗血症を見落とす)ことは、早期診断スクリーニングとして致命的であり、Surviving Sepsis Campaign Guideline 2021でも「敗血症の単一スクリーニングツールとしてqSOFAを用いないことを推奨する」とされた。今後、感度も重視した早期スクリーニング基準の改良が望まれる。

(3)実際の臨床では、敗血症の迅速な評価と初期治療を同時並行で実施する必要があり、診断プロセスの正確性と迅速性の両面が望まれる。近年、人工知能(AI)を用いた敗血症診断システムが敗血症患者の予後を改善したとの報告もあり3)、将来的には敗血症のprediction modelなども診断の有力候補になる。

以上のように、敗血症(Sepsis-3)の診断については見直しの時期を迎えており、治療と一体化する、臨床に即した診断プロセスが求められる。

【文献】

1)Umemura Y, et al:J Pers Med. 2022;12(1):44.
https://doi.org/10.3390/jpm12010044

2)Umemura Y, et al:J Infect Chemother. 2019;25(12):943-9. doi:10.1016/j.jiac.2019.05.010. Epub 2019 Jun 8

3)Shimabukuro DW, et al:BMJ Open Respir Res. 2017;4(1):e000234. doi:10.1136/bmjresp-2017-000234. eCollection 2017

小倉裕司 〔大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター准教授、Japan Sepsis Alliance(JaSA)〕[敗血症診断基準][敗血症の最新トピックス

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