土壌に存在する破傷風菌が,外傷を通じて侵入し発症する。神経毒素が末梢神経終末から逆行性に移動し,抑制性神経伝達を減少させる結果,運動神経・交感神経の過活動をきたし重篤化しうる致死的疾患である。わが国ではワクチンが定期接種となった1968年より以前に出生した世代を中心に年間100例前後が報告され,他先進国よりも多い。
外傷後,数日から最長で60日の潜伏期間を経て発症する。特異的な検査が存在せず,病歴と身体所見から診断する。発症早期の場合,全身状態が良いこともある。また,患者が気づかない軽微な外傷でも発症し重篤化しうるため,先行外傷がなくても否定しない。家庭菜園や園芸などの「土いじり」の習慣,ピアス穿刺を行ったか1)など,病歴を詳しく聴取する。重症度分類にAblett分類2)があり,初期症状が出現し48時間以内に第3期に至る例は予後不良とされる。
開口障害,嚥下障害,構音障害,後頸部痛といった主訴の症例で鑑別に挙げる。原因不明の構音障害,脳幹脳炎を疑う症例においても,破傷風を忘れないようにする。頭部CT,MRI,髄液検査で深頸部感染症や頭蓋内疾患を除外し,病歴・生活歴を聴取する。頸部の筋緊張亢進や深部腱反射亢進・異常反射を確認する。痙笑と言われる破傷風にみられる特有の顔貌がある。目を細め,口角がやや挙上した表情となる。舌圧子で咽頭後壁を刺激すると,三叉神経の活動亢進により咬筋の筋収縮をきたし,舌圧子を噛むという異常反射も診断に有用とされ,spatula testとして知られる。また,重症化すると,光,音,痛みといった刺激で後弓反張を呈することから診断できる。交感神経の過活動をきたし,バイタルの急激な変化や致死性不整脈,たこつぼ型心筋症といった循環器疾患を合併しうる3)。
①毒素産生の抑制,②血液中の毒素の中和,③筋痙攣抑制,④自律神経症状への対応,を行う。破傷風毒素は,一度末梢神経に取り込まれると不可逆的に結合し,神経終末の再生が起こるまで症状が改善しないため,早期の治療介入を行い重症化させないことが重要である。光,音,疼痛刺激を避け,粘り強く治療を行う。また,破傷風菌に感染しても獲得免疫は得られず,破傷風トキソイド接種が必須である。
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