PCC(疑い)患者への対応は,筆者らのこれまでのME/CFSの診療経験が大いに役立っている14)。結論から先に述べると,下記の4点にまとめることができる。
1 PCC以外の病態・疾患の除外とPCCの診断
2 PCCが改善しないことに対する不安や抑うつ症状への対応
3 日常生活のアドバイス
4 集学的治療
病歴で時系列的にPCCが疑われても,まずすべきことはPCC以外の病態の除外である。PCC以外の疾患が明らかになれば,直ちに治療につながる場合が少なくない。筆者らが経験した,これまでPCC(疑い)であったが異なる病態が明らかになったいくつかの症例を挙げると,鉄欠乏症(貧血はない),鉄欠乏性貧血,精神疾患の再燃,感染症(マイコプラズマないしクラミジア)などがある。除外診断のためには,症候に応じた血液,尿,画像検査以外に,倦怠感が主たる症状であるような場合には,ME/CFSの診断基準で示されているような,ある程度の幅広い検査15)を実施する必要があると筆者らは考えている。
PCC以外の病態を除外した上でPCCの診断をするには,WHOの定義に合致する病歴が最も重要である。確定的検査所見はないので,医療面接が不十分であるとPCCの診断はできない。また身体診察におけるPCCを示唆する唯一の客観的所見は,起立試験による体位性起立性頻拍症候群(postural orthostatic tachycardia syndrome:POTS)である。
起立試験の実施方法は,ベッドで仰臥位5分間のあと,収縮期血圧,拡張期血圧および脈拍数を測定する。その後立位をとらせて10分間その体勢を保持し,その間注意深く患者を観察しつつ,1〜2分ごとに収縮期血圧,拡張期血圧および脈拍数を測定する。脈拍数30/分以上の上昇を有意と判定する15)。途中,何らかの症状で立位保持困難となった場合も有意と判定する15)。収縮期血圧が下がるのも有意な所見であるが,めったに経験しない。
患者やその家族にみられることが多いのは,他のCOVID-19患者のようにスムーズに症候が回復しないことに対する不安や抑うつ気分である。来院時期としては,比較的早い時期に来院している患者が多い(図2)。
比較的早い時期に来院している患者は,症候の長期化に不安を抱いていたり,抑うつ状態にあったりする場合が少なくない。もしこのような精神症状が主である場合には,PCCの通常の経過の説明(罹患後6カ月頃までは徐々にではあっても諸症候は回復していくこと)だけでも改善をもたらすことができる場合がある。また,それでも不安や抑うつ気分の改善が不十分な場合には,そのような気持ちを受容し整理を促す一般的な心理療法や抗不安薬・抗うつ薬の投与を考慮する。
患者へは,体調の回復が感じられたときに日常活動をやり過ぎないこと,一方で,安静の取り過ぎは廃用症候群をもたらし回復を遅らせることをアドバイスする。患者の活動パターンには,患者の認知(考え方の癖)が影響していることがあり,患者の認知・行動的特徴を考慮することが必要である。なおME/CFS患者の認知・行動的特徴とそれに応じた介入については,以下の点が指摘されている16)。
まず行動面が過活動になりやすい患者に対しては,これまでとは異なるゆったりとした行動パターンを提案し,周りの反応や自分の気持ちの変化をみるよう提案する。中でも,周囲の期待に応えなければという認知から過活動になっている患者には,自己の責任を過大視していないか客観視する練習(責任グラフ)を行うことも有効である。
反対に,活動を回避する傾向がある患者については,行動の背景にある認知(動くと体調が悪化するなど)を意識化し,より現実に即した認知(体力の維持には疲れすぎない程度の活動は必要など)も取り入れられるような練習(思考記録表)を行うことで活動増加を促す。
自らの行動的特徴を意識することが難しい患者には,活動と疲労度の関係を客観視し,活動調整を行えるように活動記録表をつけてもらうこともある。
以上のような対応により,症状に受動的に影響されるだけでなく,主体的に関わっていけるという自己効力感が回復することが体調のセルフコントロールにつながる。
またME/CFSの診断基準を満たす患者の場合は,患者支援団体から出されているパンフレット17)を渡して参考にしてもらうようにしている。
PCCは,身体的問題のみならず,社会的(孤立など),経済的(離職など),生活習慣(食事や運動)なども病像の形成に影響していると考えられ,これらに対処するには全人的かつ多臓器にわたる配慮をしたアプローチが必要である9)18)。そのために最も望ましいのは,総合診療医・内科専門医,症候に応じた各科専門医,リハビリテーション医,臨床心理士,精神科医,社会保険労務士などでチームアプローチをする集学的治療である。このような集学的治療は,総合病院なら院内でチーム構成が可能であろうが,施設内でこのような集学的医療チームを構成できない医療機関では,可能なら地域内で同様のネットワークを構築することも考慮してよい。そのようなネットワークの構築は,広く地域包括ケアの展開にも役立つと思われる。
具体的な治療に関しては,スタンダード治療と言えるものはまだ存在しない。したがって,様々な症状への対症療法が主になる。筆者らは西洋医学的な対症療法のほかに,ME/CFSでの経験をふまえて漢方薬を使用する場合が多い(対“証”療法)14)。漢方医学では病因にかかわらず病歴や身体所見から病態を見立てて治療法を導き出す。この見立てを“証”という。病因にかかわらずアプローチできる漢方薬は,少なくとも対症療法としては非常に有用であると感じている。