日本の医学研究のナショナルセンターとされる組織は6つある。
東京都にある国立がん研究センター、国立精神・神経医療研究センター、国立国際医療研究センター、国立成育医療研究センター、大阪府にある国立循環器病研究センター、愛知県にある国立長寿医療研究センターだ。この6つのうちの1つ、国立循環器病研究センターが、循環器関係の研究、治療の中心であるのは、自他ともに認めるところだ。私たち病理医の世界でも、「心臓病理は国循」が常識だ。
その国循が、いま研究不正疑惑に揺れている。
大津欣也理事長をはじめとする複数の関係者の論文が、論文の検証を行うサイト「パブピア(PubPeer)」上で、画像加工による捏造改ざんの可能性を指摘されているのだ。
大津理事長の研究不正疑惑は本調査に入った。
国循ではhANPに関する研究不正が認定され、論文は撤回、臨床試験が中止になったケースが記憶に新しいが、またかという感じだ。
報道によれば、関係者の意識は低いようだ。コントロール群の写真の使い回しだから、結果に影響がないというのだ。
しかし、たとえそうだとしても、捏造には変わりない。実験が真正なものであるかがわからず、論文の読者をミスリードする。決して看過できるものではない。
こうした認識の乏しさが、国循に限らず日本の医学研究者から多数の研究不正論文が出ている背景にあるのではないか。
結果には影響しないから大したことない、誰でもやっているからいちいち騒ぐな……。そういう声は私も受けたことがあるが、そうやって問題を矮小化してきたから、このような事態になっているのではないか。
論文撤回を監視するリトラクション・ウオッチによれば、研究論文撤回ランキング上位5人中3人、上位10人には5人の日本人医師が名を連ねている。
そろそろ医学研究者は、この不名誉な事実に正面から向き合うべきではないだろうか。
大学病院に所属する医師は極めて多忙で、研究に費やせる時間が極めて限られている。それにもかかわらず研究成果を出すことが求められている。こうした状況が、杜撰な論文を連発する背景にあるのではないか。
医学研究が抱える問題を一度棚卸しし、徹底的に検証することが求められているのではないか。もうだましだましやるのも限界にきている。
榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[国立循環器病研究センター]