HIV(human immunodeficiency virus)の感染経路には,性行為,血液製剤,輸血,母子感染,静脈麻薬の常用などがあり,わが国では男性同性間の性行為による感染が多い。HIV感染症では,感染して数年~十数年の経過で徐々に免疫が低下し,様々な日和見疾患を発症するようになる。
ニューモシスチス肺炎やカポジ肉腫など23の指標疾患が定められており,これらを発症した時点で後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)と診断される。
スクリーニング検査,確認検査の順に,二段階の検査を行って診断を確定する。
さらに,CD4陽性リンパ球数と血中HIV-RNA量が,治療も含めた疾患の経過を把握するための指標となる。
HIV感染症の治療では,抗HIV薬による多剤療法(antiretroviral therapy:ART)で,血中ウイルス量を検出限界以下まで抑制し,CD4陽性リンパ球数を回復維持することで,AIDS発症を防ぐだけでなく,長期的な予後の改善も期待できる。現在の治療ではウイルスの完全な排除ができないため,長期的に良好な服薬アドヒアランスを保つことで,薬剤耐性を防ぎながらウイルス抑制を維持することが重要なポイントとなる。
治療開始時に推奨される抗HIV薬は,プロテアーゼ阻害薬,非核酸系逆転写酵素阻害薬のうちから1種類をキードラッグとして選択し,さらに逆転写酵素阻害薬1~2剤をバックボーンとして組み合わせるのが基本だが,近年は各薬剤の合剤も増えてきており,服薬錠数の軽減にも役立っている。治療選択の際には,薬剤数,内服回数,錠剤の大きさ,食事の影響,副作用,相互作用など,各治療薬の利点・欠点を理解し,個々の患者に適切な組み合わせを選択することが大切である。逆転写酵素阻害薬の中には抗HBV作用を持つ薬剤もあり,活動性のB型肝炎を合併している場合は,HIVに対してだけでなく抗HBV作用もある薬剤2剤を選択する。本稿では執筆時点の情報をもとに解説するが,今も抗HIV薬の開発が続いており,治療ガイドラインも毎年のように改訂されているため,実際に投与する際には必ず最新のガイドラインも確認してもらいたい1)2)。
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