米国では入院医療費が高額のため、短期入院や日帰り手術が多い。30年前に留学していたニューヨークの病院では扁桃摘出術を全身麻酔日帰りで行っており、術後出血の事例を受けて、今後この手術を1泊入院にするかという議論が行われていた。日本でも保険財政の観点から入院期間の短縮が求められている。耳鼻咽喉科・頭頸部外科は、手術術式が多彩かつ豊富であり、術野には神経や血管、気道など副損傷を避けるべき大切な臓器が多い。術後の出血や浮腫で生じる気道緊急は最も回避したい合併症である。一方、安全を確保した上で、全身麻酔のところを局所麻酔で実施したり、手技を工夫したりすることで、低侵襲でかつ効果を最大限高める手術が求められており、副損傷が生じにくい丁寧な操作や合併症を軽減させる周術期マネジメントが重要である。
本書では、日帰りや短期滞在で実施可能な手術について、耳科領域から14術式、鼻科領域から12術式、喉頭領域から6術式を取り上げて、エキスパートが手術手技の手順に沿って写真や動画を用いて解説している。144本の動画も見られるのが大きなメリットであり、実際に電子版に入ると、目次に各章が並んでいてそこをクリックすると、すべての章について解説と動画を見ることができる。是非、本書と動画を一緒に見ながら読み進めて頂きたい。また、各章には「短期入院のためのコンセプト」と「私の伝えたい3-5箇条」がまとめられており、手術前に再確認して頂きたい。
編者の白馬教授は公表されたDPCに基づく手術件数において、2022年、2023年と中耳真珠腫および慢性化膿性中耳炎に対する鼓室形成術件数日本一を実現されている。若手教育に熱心で、手術をさせながら指導し育成することで有名である。本書の構成をみると、エキスパートが若手を育成する際には手順を追って手技を見せることが大切と考えられ、指導者にも大変参考になるだろう。