10月26〜29日にオーストラリア・シドニーにてWONCA(世界家庭医療学会)の世界学術大会が開催され、私も久しぶりに参加した。WONCAは1972年に創設された世界で最大のプライマリ・ケア/総合診療領域の国際学術団体で、世界111カ国の133の学術団体から構成される。その会員医師数の合計は約50万人に上り、世界人口の90%の医療をカバーしている。日本も1980年代より旧プライマリ・ケア学会がメンバーに加わり、世界7つのエリアの中でもAsia Pacific Region(アジア太平洋地域)を中心に様々な活動に参画している。
今回の大会は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の下でのオンライン開催を経て、ようやく対面で開催されたこともあり、今までよりもたくさんの参加者が基調講演、シンポジウム、演題発表を満喫している様子が感じられる。私も長年交流を続けてきた海外の友人との再会を心から楽しむことができた。やはり対面での笑顔や握手、ハグを含む対話があってこそのオンラインでの対話だと強く感じている。
大会のテーマの中ではHealth Equity(健康の公平性)、そしてIndigenous Health(先住民の健康)が印象的であった。Health Equityではコロナ禍で生じた各国での健康格差の拡大、そしてそれを乗り越えるために家庭医が様々な活動を行政と連携しながら展開してきた実績を知り、大いに共感することができた。また、Indigenous Healthについては、オーストラリアのアボリジニの人々、そしてニュージーランドのマオリの人々に対して健康支援のための活動を長年続けてきた家庭医の熱い語りを聞くことができ、地道な積み重ねが先住民の皆さんに受け入れられていく物語には胸が熱くなった。
新たな学会長にはアルゼンチン出身の家庭医で米国に移住し、長年ヒスパニックの人々への医療支援を続けてきたViviana Martinez-Bianchi医師が就任。十分な医療を受けられない人々に対する家庭医ネットワークの貢献というWONCAの方向性はさらに強くなるだろう。日本プライマリ・ケア連合学会も2018年に「健康格差に対する見解と行動指針」を発出し、その中で「科学的な根拠とプロセスに基づき、あらゆる人びとが、それぞれに必要なケアやサービスを利用し、健康で文化的な生活を営む権利を擁護するためのアドボカシー活動を進めます。また、不公正な社会資源の分配の実態に目を向け、健康格差の是正のために必要な社会制度の改革に向けた取り組みに参加します」と宣言した。今後もそうした活動を力強く推進していきたい。
草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]