・現場で,リアルタイムに必要な情報を得るために,的を絞って行う超音波検査。
・従来の,臓器専門医や技師が行う精査目的の超音波検査とは区別される。
・超音波装置の進歩とともに,近年普及してきている。
・多様な健康問題を取り扱うプライマリ・ケア医は,様々な場面でPOCUSを活用することができ,プライマリ・ケア領域でのエビデンスも蓄積されつつある。
・一方で,不適切な訓練や能力不足は,検査による偽陰性/偽陽性の発生を増加させるリスクがあるため,どう対策を講じるかが課題となる。
・POCUSを臨床推論のプロセスに融合して行う場合,I-AIM(アイエイム)というフレームワークを用いると考えやすい。
・I-AIMを用いると,臨床情報だけでなく,好みや周辺の状況まで含めた患者の背景を知るプライマリ・ケア医にとって,最適な診療方針を選択するためにPOCUSが大きな強みとなる。
・プライマリ・ケアの現場で役立つ腹部POCUSの適応は幅広い。
・POCUSの適応の判断や,画像所見を解釈していく上で必要なそれぞれの検査の特性を把握することが大切である。
・より良い画質で画像を得るために,エコーに関する最低限の基礎知識もおさえておきたい。
・3つの症例でみるI-AIMを用いたPOCUSの実際。
・プライマリ・ケアにおけるPOCUSの魅力は,日々臨床で積み上げてきた知識や経験に,エコーを足すことによって,診療における不確実性が緩和されて,診断精度や患者マネジメントが変化していくことである。
・I-AIMが,POCUSを診療に定着させるための一助となれば幸いである。
POCUS(point-of-care ultrasonography,ポイント・オブ・ケア超音波),すなわちベッドサイドでの臨床判断に超音波検査(以下,エコー)が用いられるようになったのは,1970年代に外傷患者に対して用いられるプロトコルであるFAST(当時はFocused Abdominal Sonography in Trauma,現在はFocused Assessment with Sonography for Traumaの略とされる)が開発された頃と言われている。90年代後半になると,病院外へも簡単に持ち運べる装置が登場し,またエコーを行う対象臓器も広がったことで徐々に浸透していった。特に,肺をエコーで評価できるという発見は画期的で,この領域への注目を集めた。そして,2011年にN Engl J Med誌の総説でPOCUSの概念が紹介され1),認知度はさらに高まった。
それから早10年以上が経過しているが,POCUSは順調に知名度を上げ,近年は日本でも身近になってきたと感じる。
POCUSは,「手技,診断あるいはスクリーニングといった目的で,ベッドサイドでリアルタイムに,患者の症状や身体所見を直接的に加味しながら行う超音波検査」と定義されている1)。これは,「問題解決のために,的を絞って施行する検査」と,かみくだいて言い換えられることも多い。つまり,POCUSは,患者を診療しながら医師(多くはエコーを専門としていない)によって行われ,その場で臨床判断につなげていく検査であることがポイントである。従来の臓器専門医や技師が行う精査としての超音波検査と一部役割が重複することや補完し合うこともあるが,前提として両者の違いを意識して考えることが,重要である(表1)2)3)。