jmedmook88は、盟友である渡部 修氏の著書である。一冊分の原稿の量を想像するだけで気が遠くなるが、渡部氏は八ヶ岳の吹き下ろしに耐えながら、短文を箇条書きに積み上げ、見事に書き上げている(この書き方はたいへん読みやすい!)。
本書のタイトルは「もう穿刺は怖くない! エコーガイド下CVC完全マスター」とあり、近年普及したエコーガイドによる中心静脈穿刺に関する解説書である。個人的には「成功したけりゃこれを読め!」などと攻めたタイトルにしてほしかったが、「怖くない!」と促す本書には著者の教育者としての優しさが滲んでいる。
日本医療安全調査機構の統計では、いまだ年間10例ほどのCVCに関連する死亡事故が報告されている。CVCの事故をなくすには、安全な手技の学びと訓練、危険の予測と回避、迅速で的確なトラブル対応に尽きる。しかしCVCには、系統的な教育なしに見よう見まねで行われてきた黒歴史があり、多くの医療施設ではこの問題がいまだに棚上げされていると感じる。
それでもCVCの危険性に気づき努力する初学者はおり、本書は彼らの道標として間違いない。総論に始まり、各論の技術編、症例編、トラブルシューティング編、トレーニング編と必要な項目すべてを網羅している。若手は手技の項目に興味がいくが、まず目を通すべきは総論の1~12頁である。一読すれば、ここに核心が現れていると気づくだろう。いわゆるベテランの経験知である。エビデンスではないが真実が書かれている。
エコーでは血管がよく見えるのでつい「刺して」みたくなるが、ピットフォールの記述では「『どこからどのように刺せば目標に到達するか』を最初に計画する」とあり、本当の名人は刺す前に既に頭の中で仕上がっている。起こりうる危険を回避し、熟練した手技に裏打ちされて初めてそれができるのであり、安全なCVCの最終形がそこにある。
東京医科大学名誉教授の三木 保氏は「たかがCV、されどCV」という言葉を私たちに残した。CVCに関わる人間にとっての金言であり戒めでもあるが、本書は三木氏の薫陶を受けた渡部氏の覚悟の現れとも思われ、ベテランにも勧めたい渾身の一冊である。