株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「リハビリテーションの意味と役割〜専門医の立場から」大沢愛子

No.5212 (2024年03月16日発行) P.59

大沢愛子 (国立長寿医療研究センターリハビリテーション科医長)

登録日: 2024-02-26

最終更新日: 2024-02-26

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「識者の眼」の連載を担当させて頂くことになった。さて何を書こうかと考えたが、はたと「そういえば識者ってなんだろう」と疑問が湧く。コトバンクによると「①見識のある立派な人 教養のある人 分別のある人 また、故実によく通じた人」とのことで、なんと平安時代初期に編纂された続日本紀にも「識者」という言葉が用いられている。立派な人か……なるほど。いや、これは違うな。というわけで、識者のもう1つの意味は「②有職によく通じた人」であり、これは「学問や職業に精通している人」を指すようだ。それなら、リハビリテーション科の専門医である私は、リハビリテーション的見地から世の中の様々を考える役割にあるということであろう。

一般に、リハビリテーションのイメージを尋ねると、「訓練や運動」「骨折後の治療」「マッサージ」「電気をあててもらう」などという答えが返ってくるが、リハビリテーションは単に失った機能の回復だけをめざしているのではなく、疾病や外傷などにより何らかの障がいを持った人の“人間らしく生きる権利の回復”を目標としている。治療を通じた様々な試みの中で、患者の持つ身体的、精神的、社会的、職業的、経済的な能力を最大限に発揮できる状態にし、可能な限り高いQOLを実現することこそが、本来のリハビリテーションの意味である。

したがって、我々リハビリテーション科の医師やスタッフ、看護師などは、運動療法や日常生活訓練、認知訓練、摂食嚥下訓練などのリハビリテーション手技を通じて生活を再建し、なるべくその人らしい生活が送れるように支援を行う。そのためにも元気だった頃の活動の様子や生活の全体を知ることが何より大切で、性格や趣味、以前の仕事、家族、大切にしているもの、好きな食べ物などの情報を治療に関わるすべての人が共有し、これからどんな生活を送りたいかを考える。その実現の過程が、評価であったり、訓練であったりするわけだが、その際に、闇雲に努力するのではなく、患者それぞれの能力や環境に合わせて何をどのようにすれば望んでいる生活を実現できるかプランニングし、的確な方法を導き出して実行していくのがリハビリテーション科医師の仕事である。

つまりリハビリテーション科専門医は生活再建のエキスパートであり、治療の対象とするすべての疾患領域や治療技術だけでなく、あらゆる世代の話題や価値観、世相などに精通している必要がある。このような技術と知識を最大限に活かし、障がいを持つ人と並走して自立を促し、かつ、障がいの有無や程度にかかわらずすべての人が暮らしやすい社会の実現をめざすことこそが、リハビリテーション医学やリハビリテーション医療の役割であろう。

大沢愛子(国立長寿医療研究センターリハビリテーション科医長)[識者][リハビリテーション][生活]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top