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【識者の眼】「子どもの虐待を早期発見するために」坂本昌彦

No.5211 (2024年03月09日発行) P.56

坂本昌彦 (佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)

登録日: 2024-02-26

最終更新日: 2024-02-26

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子どもの虐待についてのニュースをよく目にします。2022年度の児童相談所における虐待相談対応件数は21万9000件と過去最多を更新しました。約半数が心理的虐待〔児童に対する著しい暴言や拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(面前DV)〕で、身体的虐待が約25%とされています。相談経路の約半数は警察で、医療機関からの通告は少ない(約2%)こともわかっています。虐待事例のすべてに医療機関が関わるわけではありませんし、警察と連携し、通告は警察から行うケースもあります。それでも、我々医療者が虐待を見逃していないかと振り返ることは重要です。虐待による頭部外傷の見逃しは28%の再受傷につながるとの報告があり、見逃しは最悪の結果をまねく可能性があります。一方で虐待が判明するまでに、救急外来を平均4.6回受診するとの報告もあります。少しでも見逃しを防ぐために、改めてポイントを整理したいと思います。

まず、虐待に気づくきっかけとしては、①Care delay:受診行動の不自然な遅れ、②History:病歴上の矛盾、③Injury of past:過去に同様のケガの既往、④Lack of nursing:養育の過誤(タバコ誤飲等子どもの安全が守られていない)、⑤Development:発達段階と症状の乖離、⑥Attitude and Behavior:保護者・子どもの態度(親の顔色を過度にうかがう、過剰に馴れ馴れしい等)、⑦Unexplainable:説明不能(子どものケガの状態を説明できない、また話のできる子どもが「わからない」と言う)、⑧Sibling:きょうだいがやったという説明、⑨Environment:環境リスク(健診未受診の有無や経済状況)─があり、頭文字を取ってCHILD ABUSEと覚えます。

身体所見では、服に覆われていて目立たない部分にあざがないかをよく観察します。骨の突出している前額部や肘などは幼児期以降に傷やあざができやすいものですが、骨が突出していない柔らかい部分にできたケガは注意深く観察することが必要です。TEN-4 ruleというものが知られています。Torso(体幹)、Ear(耳)、Neck(首)にあざを認めた4歳以下の子どもの場合、虐待に対する感度97%、特異度84%というものです。このような特徴を知っておくことは医療者に必要な知識と考えます。

また、熱傷で救急外来を受診するケースも多いかと思います。熱傷は骨折よりも受傷時期の特定は容易ですが、事故と虐待の判別が難しく見逃されがちです。重いやけどは、たとえ事故であっても環境整備など再発予防指導につなげる必要があり、いずれにせよ関係機関で情報共有し、連携していく必要があります。

次に、虐待の可能性を疑った際には、情報収集にも工夫が必要です。医療者の役割は犯人探しではなく、保護者に脅威を与えたり制裁を加えたりすることではありません。子どもの安全を担保するのが役割と心得るべきです。憤りなどの正義感は理解できますが、あくまでも客観的な所見を探し、写真に記録します。

3歳以上では「だれが」「何を」したという被害の中核を話すことができるとされており、養育者と子どもは分離して問診します(傷の処置や検査など医療的な理由で行うと同意を得やすいです)。「ここ、どうしたの?」というオープンな質問をしますが、その際「本当に?」というような確認の質問はしてはいけません。子どもの記憶は容易に新しい情報で塗り替えられてしまうため、聞きすぎてしまうと、後から子どもの話の信用性が疑われる一因になりかねないためです。こうした対応を行いつつ、病院内の子ども虐待対応チーム(child protection team:CPT)につなげていくことになります。

最後になりますが、児童虐待による重症例や死亡例でも、軽症の段階で医療機関を受診していたケースは少なくありません。中には養育支援の課題があった児も報告されており、医療機関への受診は子どもや養育者からの最後のSOSである可能性もあります。医療機関だけでなく地域全体で対応することが必要で、児童相談所や市町村の母子保健課・児童虐待対応部署等と速やかに連携していくことが求められています。

坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[CHILD ABUSE][TEN-4 rule]

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