2024年は北里柴三郎イヤーですので、今回は北里柴三郎先生の数ある代表的な教えの1つである“熱”と“誠”についてお話しします。
人に熱と誠があれば何事でも達成する、という教えが“熱”と“誠”という言葉の由来です。これは生化学者の荒木寅三郎先生が、ストラスブルグ大学に留学中の1891年に、ベルリンに滞在していた親友の北里柴三郎先生を訪ねた際に聞かされた言葉とされています。
下記はこの“熱”と“誠”について、北里柴三郎先生の血清療法を現代の臨床現場で継承し、薫陶を拝したものとしての私なりの解釈です。
熱は情熱であり、passionです。熱く、物事に、研究に取り組むということですが、北里柴三郎先生は特に実学(常に実臨床を見据えた研究)にこだわられており、“効く”の見きわめを重要視されていたのではないかと思います。“効く”の確信があるテーマを研究の中心に置いて情熱を注ぐこと、これが“熱”です。
では“誠”はいかがでしょうか? 真摯に研究に向かいあうこと、素直に指導者の指導を受け入れること、研究結果に正直に向かいあうことなどもすべて“誠”です。さらに、北里柴三郎先生は忠誠心を大切にされていたように思います。ドイツから帰国後の厳しい状況から救って下さった福沢諭吉先生の恩に真心を持って報いるため、初代慶應義塾大学医学部長に無報酬で就任されました。この恩に報いるまでのすべての誠が、北里柴三郎先生の“誠“です。
既に読者の先生方も気づかれたと思いますが、肝は“熱”と“誠”の間の“と”、つまりandの部分です。“熱”だけでは不十分、“誠”だけでも不十分ということです。この2つをandで行っていくこと、これが北里柴三郎先生の教えであり、人生の修行だと思っています。
北里柴三郎先生は血清療法を開発したことで、現代にも通じる抗体療法による医学的貢献がよく知られていますが、今回のように哲学的な面でも現代の我々医療従事者への教えがたくさんあります。今回はそのホンの一部である“熱”と“誠” の解釈について、私なりにお話しさせて頂きました。
一二三 亨(聖路加国際病院救急科医長)[荒木寅三郎][福沢諭吉]