【配慮や支援は本人との対話による合意形成のもとで,過重な負担のない範囲で行う】
2024年4月からすべての行政機関等と事業者に対して義務化される「合理的配慮」の考え方が参考になると思います。合理的配慮の提供は,障害のある人から社会の中にあるバリアを取り除くための対応が必要であるとの意思が伝えられたときに,過重な負担のない範囲で対応するものです。本人が自分に必要な配慮を受けたいという意思を示し,事業者側がどこまでの配慮が可能でどこからが過重な負担になるのかを示した上で,建設的対話によって配慮の方法と範囲について合意しながら進めていくことが重要です。
この考え方は,障害のある人と支援者の日常的な関係づくりにおいても同様です。支援を提供する側と受ける側との関係には,対話による合意形成が必要です。ところが,ASDの人の一部で,合意形成する習慣が身についていないことがあります。自分の意見を述べることや,他者の意見に耳を傾けることがうまくできないのです。
自分の意見を述べるためには,自分の意見を明確に自覚することと,それを他者にわかるように伝えることが必要です。また,他者の意見に耳を傾けるためには,他者の考えや感情が自分とは異なることに気づき,それに配慮する姿勢が育っている必要があります。ASDの人は,自分の考えを俯瞰的に認識することや,他者との違いを認識することの発達が,平均的な人よりは遅れがちであると言われています。このため,対話を重ねて合意形成する習慣を身につける時期が通常より遅いことがあります。ただし,ASDであっても多くの人は,成人期までに合意形成の習慣が身につきます。成人期になっても合意形成が難しい場合は,ASDの特性以外の要因が加わっていると思われます。
私見ですが,保護者や教師などから有無を言わせず命令されるような育てられ方をされると,合意形成の習慣が身につきにくい印象があります。自分の意見を無視され,自分の権利が抑圧され続けてきた結果,他者から手を差し伸べられても警戒し,ちょっとした摩擦で被害感情を持ちやすくなるのです。また,自分の権利回復にのみ関心が向いてしまい,他者の事情を考慮せず,他者の厚意を当然のこととみなしがちで,自分の意向が少しでも満たされないと攻撃的になることがあります。
合理的配慮と同様に,医療や福祉も合意形成しながら支援を進めていくものです。支援者が不当に攻撃されるようであれば,それは過重な負担と考えざるをえないでしょう。支援者ができる支援はここまでだという限界を設定し,その範囲内でできる支援を提案し,それを超えた要求には応じられないことを明示する必要があります。
合意形成が難しく攻撃性の強い人を受け入れることは,通常の医療や福祉の枠組みでは難しい場合があります。支援者側が身体的・心理的な被害を受けるようであれば,司法に相談する必要があるかもしれません。
【回答者】
本田秀夫 信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授