4月9日は「子宮頸がん予防の日」です。20〜40代の子育て世代が発症することも多く、妊娠や出産にも影響がある子宮頸がんは、「マザーキラー」とも呼ばれ、その対策は急務です。子宮頸がんの原因の95%以上がヒトパピローマウイルス(HPV)感染が原因であることがわかっており、予防には頸がん検診だけでなくHPVワクチン接種が非常に有効とされています。
2013年に定期接種化された直後から、安全性の懸念により積極的勧奨が一時差し控えとなったこのワクチンですが、その後の多くの研究で安全性が確認され、20年には男性への適応拡大、22年には積極的勧奨の再開とキャッチアップ接種が開始、23年4月からは9価HPVワクチンが定期接種になりました。
HPV感染は性的接触でうつる性感染症であることから、男性がHPVを女性にうつすリスクを下げるためには男性への接種を勧めることも重要です。また男性に多い中咽頭がんの約半数はHPVが原因でもあり、男性自身をがんから守るワクチンでもあります。
そのため世界中で男性への接種が広がっており、現在59カ国で男性もHPVワクチンの定期接種の対象となっています。オーストラリアでは20年近く前から定期接種が男女ともに進められた結果、子宮頸がんの罹患者数は大きく減少し、2028年には子宮頸がんは撲滅されるという推定もされています。
そのような中、先月、厚生労働省の専門家委員会が費用対効果に課題があるとの見方を示し、男性への定期接種は当面見送られることになりました。女性へのワクチンの「直接効果」に加え、男性への免疫をつけることはHPVの感染経路を断ち切ることにつながります。即ち「間接効果」があると言えます。まだまだHPVワクチン接種率が上がらない現状では、男性への接種による間接効果は大きいと考えられますので、非常に残念なニュースと言えます。
この春休みを利用して、筆者の勤務する医療機関でもHPVワクチン接種を希望する女子生徒の受診はありましたが、まだまだ少ないのが現状です。ときどき「うちの息子にも必要でしょうか」という問い合わせも頂きます。実際にお話しすると、有料でも本人と相談して接種を決断される方も少なくありませんが、やはり9価の3回接種が8〜10万円(2回接種は5〜7万円)のハードルは非常に高いです。定期接種になれば当然接種しやすくなりますし、接種年齢が15歳未満なら2回接種ですみます。
自治体の中には独自で男性への助成を進めているところもあります。医療従事者も引き続き自治体や国へ働きかけるとともに、なぜ男性にも接種が必要なのかという点について、診療や健診の機会などを通じて学校関係者や生徒・保護者の皆さんに説明を重ね、社会の理解を促していくことが大切です。
坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[子宮頸がん][中咽頭がん][定期接種]