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【識者の眼】「オープンサイエンスを巡って②─儲けすぎている学術雑誌の大手出版社」船守美穂

No.5219 (2024年05月04日発行) P.58

船守美穂 (国立情報学研究所情報社会相関研究系准教授)

登録日: 2024-04-18

最終更新日: 2024-04-18

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論文のオープンアクセス(OA)運動は2000年頃、学術雑誌の購読料が高騰し続けることへの対抗から生まれた。現在、欧米の学術雑誌の約半分がエルゼビア社、シュプリンガーネイチャー社、ワイリー社の大手3社から出版されているが、その年間の購読料が1986〜2011年の25年間に4倍になるなど、負担不能なほど値上がりしていたのだ。ちなみに、この上昇傾向は2024年の現在に至るまで続いており、冊子体の場合は年率7%、電子媒体の場合は年率4%で値上がりしている。近年はこれに加えて、OA出版するための論文掲載料(article processing charge:APC)も同様に値上がりしている。

一般的な市場経済では、商品の価格が高くなりすぎると購買が控えられるため、価格が適切な額に落ちつくとされている。しかし、学術雑誌の場合は2つの点で状況が異なる。1つ目は、学術雑誌に掲載されている論文は一点物であるため、特定の学術雑誌の価格が高いからといって、代替品で済ませる訳にはいかないという背景がある。2つ目は、学術雑誌は研究活動に必須のアイテムであるため、他の経費を削ってでも大学や国が購読料を負担することが期待できるのだ。

しかし、国民の立場からすると、これはゆゆしき事態である。学術に関わる研究費は基本的に公的資金である。つまり、自分たちの血税が出版社の収益拡大に食いつぶされていることを意味するのである。出版社が、提供したサービスに対する正当な対価を得ているのであれば問題はないが、これら大手出版社の収益率は40%前後もある。

研究者についても、自身の論文が学術雑誌に掲載されたか否かで一喜一憂ばかりしているのではなく、自分たちの置かれた状況を認識すべきである。一般の商業雑誌の場合はライターに対して原稿料等が支払われるが、学術雑誌の場合、当たり前であるが、論文執筆への対価は支払われない。それどころか、論文が掲載されるように、著者が経費を支払う場合さえある。さらに、当論文を学術雑誌に掲載することが適切か、同じ分野の研究者が複数、論文を無償で査読する。そして、このようにして出版された質の高い論文を、アカデミアはある意味、購読料を通して買い戻している。

商業出版社から見れば、口を開けて待っていれば、学術雑誌に掲載される原稿がどんどん舞い込んできて、その品質管理も査読を通じて自動的になされ、自分たちはこれら原稿を束ねて販売すればよいのだから、こんなに美味しいビジネスはない。しかも近年は電子化により、出版社の仕事はさらに省力化しているのである。

このような事態に対して、学術雑誌の購読契約を担当している大学図書館業界と一部の問題意識の高い研究者が反旗を翻した。当時、一般利用が広まりつつあったインターネットを利用して、論文をオープンに流通させようとしたのである。

このような運動を通じて、論文のOA化は近年、だいぶ進んできている。しかし、これがまた別の問題を引き起こしている。その話題は次回以降で紹介したい。(続く)

船守美穂(国立情報学研究所情報社会相関研究系准教授)[学術雑誌の購読料高騰][論文のOA化][商業出版社]

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