4月12日、欧州医薬品庁(EMA)の医薬品安全性監視・リスク評価委員会(PRAC)は、「GLP-1-RA使用」と「自殺/自傷(企図)」の因果関係を支持するエビデンスは現時点で存在しないとの見解を明らかにした [PRAC要約] 。一方、豪州の大規模データを解析すると、GLP-1-RA処方に伴い少なくとも「抗うつ剤」処方の確率は高くなっていた。ただし抗うつ剤処方が増える血糖降下薬はGLP-1-RAだけではなく、糖尿病の「難治性」が影響している可能性も示唆された。ノートルダム・オーストラリア大学(豪州)のOsvaldo P. Almeida氏らが4月23日、Diabetes, Obesity and Metabolism誌で報告した。
解析の対象は、豪州在住の2012年時点で抗うつ剤を処方されていなかった121万3361名である。公的保健(PBS)データベースの任意抽出10%データから抽出された。GLP-1-RA処方数は2012年時1094例のみだったが、2021年には8329例まで増加していた。
2012年以降の抗うつ剤処方開始リスクをGLP-1-RA処方の有無別に比較した。
10年後の2022年における抗うつ剤処方率はGLP-1-RA「処方」群で約5%、「非処方」群では3%強だった。その結果、GLP-1-RA「処方」群の、「非処方」群に対する抗うつ剤処方の補正後(補正項目:年齢、性別、CV疾患治療薬、抗不安剤、不眠薬、血糖降下薬使用数)ハザード比は、1.19(99%信頼区間[CI]:1.12-1.27)の有意高値となった。
ただし後付解析を実施すると、抗うつ剤処方HRが有意に増加していた血糖降下薬は、GLP-1-RA以外にも存在した。特にインスリンのHRは1.26(95%CI:1.23-1.30)であり、GLP-1-RAと同等だった。
またビグアナイド(HR:1.09、99%CI:1.07-1.11)、SU剤(1.07、1.04-1.11)、DPP-4阻害薬(1.07、1.04-1.11)でも、若干ながら抗うつ剤処方のHRが有意に上昇していた。
Almeida氏らは必ずしも、GLP-1-RA使用そのものが抑うつリスクを高めるとは考えていないようだ。すなわち「抗うつ剤処方増加」は必ずしも「抑うつ例増加」を意味する訳ではない(他適応での処方もあり得る)。またインスリンでも抗うつ剤使用率が高かったことを考えると、それら2型糖尿病の難治度が患者のメンタルに悪影響を与えていた可能もある。ただし同氏らは今後も、GLP-1-RAに伴う抑うつリスクの監視は必要だと考えている。
本研究には申告すべき利益相反はないとのことである。
なお米国食品医薬品局(FDA)は、とりあえずGLP-1-RAと自殺(企図)間の相関は認めらないとしながらも、データが不十分なためさらなる調査を続けるとしている [03/08/2024] 。
食欲抑制剤の歴史を見ると、なぜか登場直後から重篤な有害事象の可能性が指摘されるケースが多い。その結果、市場から退出した薬剤も存在する。FDAの最終見解を注視したい。