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【識者の眼】「フェンタニル貼付中の痛みには(補助薬編)」西 智弘

No.5225 (2024年06月15日発行) P.63

西 智弘 (川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)

登録日: 2024-05-31

最終更新日: 2024-05-31

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前稿(No.5221)では、癌性疼痛に対してフェンタニルを漫然と増量していくと「眠いけど、痛い」という悲惨な状況を招きますよ、という話をした。

このような場合には、まずオピオイドの種類を変更してみましょう、特にモルヒネやオキシコドンに、という対応策も紹介した。

しかし、それだけでは不十分な場合も多々ある。モルヒネに変更して、少しは楽になったものの、やはり「眠くて痛い」状態が続いてしまう。なぜこのようなことが起きるのか? その原因の1つは「癌性疼痛とは1種類の痛みである」という医療者の思い込みである。「疼痛」とは「(患者が訴える)痛み」であり、その症状を緩和するものの最高峰がオピオイドなんでしょ……などと考えていると、疼痛緩和はうまくいかない。それは、「痛み」とは1つではないからだ。

生理学でも習ったかと思うが、そもそも痛みの発生の仕方や伝達経路からして1種類だけではない。それぞれの経路を遮断するためには、当然のように複数の薬剤が必要になる。その中でも、神経が障害されることで発生する痛みがあまり考慮されていないか、考慮されていてもプレガバリンが申し訳程度に処方されていたりする。プレガバリンはもちろん良い薬剤だが「それがどの疼痛経路を遮断しているのか」を意識して出していなければ、また漫然と薬を増やしていくだけの緩和ケアに陥ってしまうだろう。

具体的な考え方や薬の増やし方、組み合わせ方などは『緩和ケアレジデントマニュアル』(医学書院)などを参考にしてもらいたいが、フェンタニル10mg貼付で痛みが取れなかった患者が、フェンタニルを6mgに減量するとともにNSAIDsおよび三環系抗うつ薬を追加したことで「眠気も痛みもスッキリしました!」なんて事例は山のようにある。

癌患者の経験する痛みは、決して1種類ではない。それを意識して薬剤を調整するだけでも緩和ケアの質は格段に上がるだろう。また、それでもなかなかうまくいかないときは気軽に緩和ケアの専門家を頼ってほしい。

西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[癌性疼痛痛みの伝達経路

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