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【識者の眼】「鳥インフルエンザH5N1の感染拡大に備える」小倉和也

No.5227 (2024年06月29日発行) P.57

小倉和也 (NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)

登録日: 2024-06-12

最終更新日: 2024-06-12

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米国で鳥インフルエンザH5N1の3例目かつ初めて呼吸器症状を呈する患者が発生した。呼吸器症状は人から人への感染、特に空気感染を起こす感染症に発展する可能性を示しており、憂慮に値する1)

H5N1は1996年から報告されていたが、数年前から鳥類、特に渡り鳥の間で大流行を起こし、ここ2年ほどはアザラシの大量死のほか、乳牛での感染拡大や猫、ネズミなどあらゆる哺乳類に感染が広まっている2)。アルゼンチンではゾウアザラシ1万7000頭が感染死したと推定されているが、その分析からは、同種間で感染が広がったことが推測され、また鳥では基本的に見られなかったエアロゾル感染を起こしやすくする遺伝子変異も確認されている3)

コロナ禍の始まりと同様、検査や対策の遅れが指摘されているが、人から人への感染、空気感染がないと証明されるまでは、どちらも起こりうるものとしての対応が必要であろう。

フィンランドがH5系統に対するワクチンを感染リスクのある人々を対象に開始する方針をいち早く発表した4)が、ワクチン接種が一般化した場合、その分配や正しい理解の促進についても、迅速かつ着実に進める必要がある。

先日行われたWHOのWorld Health Assemblyでは、残念ながら次のパンデミックに備えるための新たなpandemic accordの採択は延期されてしまった5)が、H5N1の広がりやメキシコでの世界で初めてのH5N2感染者の発生6)見ても、ハワイや南半球で感染が拡大しているコロナの新たな変異株KP.2やKP.3と併せて対応できるよう、国際協力から地域での連携まであらゆるレベルでの1日も早い体制づくりが望まれる。

【文献】

1)The New York Times公式サイト:OPINION. Bird Flu Doesn’t Have Become History’s Most Avoidable Disaster.(2024年5月28日)
https://www.nytimes.com/live/2024/05/28/opinion/thepoint#bird-flu-michigan

2)米国農務省動植物検疫課公式サイト:Detections of Highly Pathogenic Avian Influenza in Mammals.(2024年6月4日)
https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/avian/avian-influenza/hpai-detections/mammals

3)Uhart M, et al:bioRxiv. 2024;doi:10.1101/2024.05.31.596774(preprint)

4)STAT公式サイト:Finland to offer bird flu vaccine to select groups of people, a possible global first.(2024年6月5日)
https://www.statnews.com/2024/06/05/finland-h5n1-bird-flu-human-vaccine/#:~:text=The%20vaccine%20campaign%20will%20be,where%20there%20have%20been%20outbreaks

5)Taylor L:BMJ. 2024;385:q1227.

6)WHO公式サイト:Avian Influenza A(H5N2)-Mexico.(2024年6月5日)
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2024-DON520

小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[ヒト-ヒト感染WHOワクチン

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