【質問者】海老澤 馨 神戸大学病院感染症内科
【アシクロビル予防投与に加え,接種時期を十分に考慮した帯状疱疹組み換え蛋白ワクチンの接種を検討する】
骨髄移植,末梢血および臍帯血を含む造血幹細胞移植(以下,移植)は日本では2021年の1年間で約12万件報告され,うち36%が自家移植,残る67%が同種移植でした1)。移植前の水痘既往に伴う移植後免疫低下状態での帯状疱疹発症は深刻な問題であり,移植後はアシクロビル継続投与による予防法が確立されています。にもかかわらず,移植後帯状疱疹は高頻度で発症し(自家移植後半年で6.1%2),臍帯血移植後2年で19%3)など),入院・静注治療を要する重症帯状疱疹も稀ではありません(同種移植後コホート中1%,1000人年あたり4.4件)4)。
予防接種による帯状疱疹予防の選択肢は,かつては水痘弱毒生ワクチンのみでした。生ワクチンのため,接種可能になるのは移植後に十分免疫能が回復してからであり(国内ガイドラインでは2年以上)5),移植後2年以内の発症率を鑑みると難しさがあります。しかし,2018年に承認された帯状疱疹組み換え蛋白ワクチン(シングリックス®:2回接種2カ月間隔,18歳以上対象)は,活性ウイルスを含まないため移植後免疫低下状態でも理論的に安全です。
実際に複数の臨床研究が行われており,自家移植後を対象としたランダム化比較試験(RCT)では帯状疱疹発症が68%減少し6),QOLも有意に改善しました7)。同種移植後については,接種後の帯状疱疹特異免疫の向上を観察した報告はありますが8),帯状疱疹減少を観察した臨床研究は現時点では存在せず,エビデンスが十分ではありません。なお,いずれの報告でも重篤な接種後有害事象は観察されず,別の同種移植後研究でも移植片対宿主病(graft versus host disease:GVHD)の増加を認めませんでした9)。
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