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【識者の眼】「目に見えない虐待への対応と医療の役割」小橋孝介

小橋孝介 (鴨川市立国保病院病院長)

登録日: 2024-06-21

最終更新日: 2024-06-21

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創傷など目に見える虐待である身体的虐待やネグレクトに対して、目に見えない虐待と言われる心理的虐待や性虐待への気づきや対応はむずかしい。長期予後としては、身体的虐待やネグレクトより心理的虐待や性虐待のほうが悪いとされており、いかに目に見えない虐待に対応しケアにつなげていくかが課題となってきている。

米国では、1983年に発生した性虐待事件であるマクマーティン保育園事件がきっかけとなり、目に見えない虐待への対応の取り組みが進んだ。この事件では、立件の根拠となった子どもの供述が、誘導的な面接によるものであるなど聴取の方法に問題があったことから無罪判決が出された。このためいかに子どもの負担を少なく、正確な供述を得るのかが課題として認識されるようになった。その後、子どもの供述の聴取方法として様々な司法面接法が開発され、ワンストップで聴取から全身診察、事後のケアまでを行う子どもの権利擁護センター(Children’s Advocacy Center:CAC)の設置が全米で進んだ。現在では900カ所以上のCACが設置されている。

日本では、2015年に厚生労働省の通知に基づき、虐待を受けた児に対して児童相談所と警察、検察が協働して1回の聞き取りで被害に関する聴取を行う司法面接(共同面接、代表者聴取と呼ばれることもある)の運用が始まった。しかしながら、司法面接の取り組み以外の全身診察、精神的なケアなどを行うことのできるCACの設置は民間団体による2カ所にとどまっており、子どもを中心とした包括的な虐待対応ができていない現状がある。特に、米国では相互に補完関係にある司法面接と全身診察は被害事実アセスメントとして重要視されており、医療が多職種連携チームの一員として参加することが求められているが、日本では医療がこのプロセスに関われていないことは大きな課題である。この背景には、子ども虐待医学の専門性をもった医師の系統だった育成がほとんど行われておらず、専門医等の認定制度もないため、司法面接に関わったり、全身診察をしたりすることができる知識と技能を持った医師がごくわずかであることが要因としてある。米国では子ども虐待医学は1つの系統的な専門分野として発展しており、2005年には小児科専門医の新たなサブスペシャリティーとして子ども虐待専門医が認められている。

日本でも子ども虐待医学の専門性を持つ医師の養成を行い、日本の文化や制度に合った司法面接法の開発やCACの設置が進んでいくことが望まれる。

小橋孝介(鴨川市立国保病院病院長)[司法面接子どもの権利擁護センター子ども虐待子ども家庭福祉

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