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【識者の眼】「『偉く』なることと現場にいること」野村幸世

No.5230 (2024年07月20日発行) P.63

野村幸世 (星薬科大学医療薬学教授)

登録日: 2024-07-01

最終更新日: 2024-07-01

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年齢とともにキャリアを重ねていくと、多くの医師がその地位を上昇させていくと思う。組織の中で地位が上昇すると、管理職となっていく傾向にあり、現場とは遠ざかる医師も少なくないのではないかと思う。私は若い頃から臨床においても、研究においても、現場で働くことが好きで、管理職はあまり好きではない。

私が30代の頃、尊敬する部分のある先輩で、昇進をめざしている方に質問をしたことがある。「なぜ、昇進するのがよいことなのか」と。私にとっては、昇進は現場と遠ざかっていくことに思えたからである。その先輩のお答えは、「自分の地位が低いと、よい提案をしても世の中の誰も聞いてはくれない。しかし、地位が高くなれば、皆が意見を聞くようになる」ということであったと記憶している。私は当時、半分納得したようなしないような気持ちになった覚えがある。確かに、自分の意見は多くの人に聞いてもらい、かつ納得してもらいたいとは思うが、そのために日々の仕事が望まないものであるとあまり幸せではないように今でも思っている。

私は大学院生として研究を始めて数年経った頃、毎日、実験をしていることがとても幸せであった。実験をし、データを出し、論文を書き……ただ、その先にある先輩の姿を見ると、デスクワークが増え、その後、さらに管理や会議の仕事が増え、あまり羨ましいとは思えなかった。むしろ、一生、実験だけをしているテクニシャンの人がいいように思え、テクニシャンになればよかったか、と思ったくらいである。

しかし私が、地位の上がることをまったく嬉しいと思わない人間かというとそんなこともない。ただ、地位が上がった後の仕事を望んでいるというよりは、地位が上がるようなキャリアを積め、多くの人から信頼を寄せられ、地位が上がるほどに認められた、という事実が嬉しいような気がする。つまり、地位が上がる、というプロセスを歓迎しているのであって、その結果を望んでいるわけではないということになる。

そもそも、キャリアを積むとなぜ現場を離れ、管理職をすることになるのか疑問に思わないわけではない。それが社会や多くの人の方向性を決める職務だからなのだろうか。一般論として、もう少し、地位が高くなっても現場に近い存在であることはできないのだろうか。管理職のほうがお好きな医師もいるのだろうか。私自身は、本当に信頼のおける上司のもとで、現場に近く活動を継続している程度の地位にいることが最も幸せなように思う。

野村幸世(星薬科大学医療薬学教授)[管理職][研究]

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