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特集:対応に難渋する高齢者の腰痛管理

No.5229 (2024年07月13日発行) P.18

今村寿宏 (九州労災病院整形外科脊椎外科部長/勤労者骨・関節疾患治療研究センターセンター長)

登録日: 2024-07-12

最終更新日: 2024-07-10

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1994年大分医科大学(現大分大学)医学部卒業。九州大学整形外科教室入局後,九州大学大学院医学系学府機能制御医学専攻入学と同時に産業医科大学医学部分子生物学教室訪問研究員となる。2006年ワシントン大学整形外科,帰国後,2016年より九州労災病院勤労者骨・関節疾患治療研究センターセンター長となる。2018年より同病院整形外科脊椎外科部長兼任。

1 Red Flagsを除外しておく

  • 感染,腫瘍,骨折,心疾患等のRed Flagsを除外しておく。
  • 間歇性跛行の原因は,腰部脊柱管狭窄症だけでなく,下肢閉塞性動脈硬化症で起こることもあるので,自転車で下肢痛や痺れが強くなる場合は血管性疾患を疑う。

2 姿勢や歩行を確認

  • 歩行状況で脊髄症,馬尾症候群を鑑別する。
  • 骨盤を前傾し腰椎前弯を獲得する姿勢にて,腰痛が改善することがある。

3 薬物療法

(1)非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

  • 腰痛初期では侵害受容性疼痛が多いため,NSAIDsを短期間使用する。
  • 特に高齢者は腎機能低下が多いので,NSAIDsを漫然と使用することは控える。

(2)神経障害性疼痛治療薬

  • プレガバリン,ミロガバリンは傾眠,ふらつき等に注意する。
  • できる限り低用量から開始し,症状に応じ漸増する。

(3)オピオイド鎮痛薬

  • 嘔気,便秘の増悪に注意する。
  • メトクロプラミド等は薬剤性錐体外路障害のリスクでもあるので,短期間の服用にとどめる。
  • 腎機能低下がある場合,酸化マグネシウム製剤内服による高Mg血症に注意する。

(4)セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)

  • 食欲低下,活力低下,便秘の増悪に注意する。
  • オピオイド鎮痛薬と併用する場合は,セロトニン症候群に注意する。

4 運動療法:いつでもどこでもできる安全な治療

  • 天井から吊り上げられるようなイメージを常に意識する。
  • 呼吸を意識して腹横筋を鍛えることは,「いつでもどこでもできる運動療法」である。

5 疼痛コントロールに難渋したら

  • 日本いたみ財団のいたみ専門医や痛みセンター等,専門医にコンサルトするのも一法である。

1 はじめに

内閣府が発表した「令和4年版高齢社会白書」によると,2020年度高齢化率の世界トップ3は,日本(28.6%),ドイツ(21.7%),フランス(20.8%)であった1)。いずれの国もいわゆる先進諸国であり,バリアフリー化した建物が多いなど,高齢者が暮らしやすい国づくりを行っていることが特徴である。また65歳以上の者がいる世帯については2021(令和3)年時点で2580万9000世帯と,全世帯(5191万4000世帯)の49.7%を占めている。1980(昭和55)年では世帯構造の中で三世代世帯の割合が一番高く,全体の半数を占めていたが,2021(令和3)年では夫婦のみの世帯および単独世帯がそれぞれ約3割を占めており,65歳以上の1人暮らしの者は,男女ともに増加傾向にある。高齢者のみの世帯が増加している令和時代において,腰痛は日常生活に非常に支障をきたす。交通の便が良い都市部では公共交通機関で移動できるが,地方であれば自分で車等を運転して移動することが必要になることも多い。

高齢者腰痛の原因で多い脊柱管狭窄症が進行すると,間歇性跛行のため信号が変わる前に道路を渡れなかったり,立位保持困難であると,炊事をする際シンクに上腕で体を支えなければ,料理をつくることができなくなったりする。しだいに外出も減り,社会的孤立にも陥りかねない。そうなるとますます疼痛に過敏となり破局的思考にも陥りやすく,便秘や下痢,睡眠障害といった自律神経障害,そして疼痛の慢性化のみならず,認知機能障害にも陥りやすい状況になる(図1)。加齢に伴い生活習慣病も増え,通院回数,薬剤の種類,総内服数も増えるであろう。整形外科でよく処方される鎮痛薬と内科治療薬剤等とが相互作用を起こす可能性もあり,高齢者腰痛治療においては診断から処方まで,若者と同じように考えていてはいけない点が多い。

本稿では,筆者が臨床を通じて実践している高齢者腰痛治療についてお話しする。

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