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【識者の眼】「『フェラーリは買うな』とは言ってはいけない」岩田健太郎

No.5233 (2024年08月10日発行) P.67

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2024-07-30

最終更新日: 2024-07-30

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何の話だと思った読者の皆さん、すぐにわかりますのでしばしご辛抱を。

私事で恐縮だが、ファイナンシャルプランナー(FP)の資格を持っている。医学だけでなく「医療」を理解するには、金銭を理解しなければならないと考えたからだ。

資格を取るまで知らなかったが、FPという仕事のミッションにはしびれた。

FPのミッションは、顧客の資産を増やすことではない。節税させることでもない。それは手段であって、目的ではない。

FPのミッションは、顧客の夢を具現化させること。

これ、素晴らしくないですか?

3人の子どもを大学に行かせ、子どもが独立したらパートナーと世界一周のクルーズ旅行に行きたいというクライアントなら、現在の収入や家族のライフイベントを勘定に入れて、そのような夢を実現させるべく専門的な知識を活用してアドバイスする。もし「夢はフェラーリのオーナーになること」であれば、フェラーリ購入にかかる諸費用を計算し、現状の収入からいかにその夢を実現させるか、アドバイスする。

ここで大事なのは、FPは「フェラーリ買うなんてバカバカしいですよ。環境にもよくないですから、小型の電気自動車にしときましょう」なんてことを口が裂けても言ってはいけない、ということである。FPは顧客の夢を実現化させるために自らの専門性を最大限に活用する。そのFPが顧客の夢自体を否定してはいけないのだ。

「フェラーリのオーナーになる」ことの価値をぼくは知らない。知る必要もないし、その是非を問う意味もない。その価値を知るのはただ顧客のみであり、それを理解共感できる必要はFPにはない。顧客に共感できなくてもFPの仕事はできるし、すべきなのだ。

翻って医業である。

感染症をやっていてよかったと思うのは、この業界はFPと親和性が高いのである。

外来患者の多くはHIV感染者で、彼らの多くはMSM(男性同性愛者)だ。日本ではHIV感染リスクなのである。しかし、我々は絶対に同性愛者やめろとか、セックスするなとは言わない。彼らのレゾンデートルにはふみ込むことなく、医業にできる最大限の努力をするのである。

しかし、患者の生き様と医療がバッティングすることは多い。生き様全否定のケースも珍しくない。それは「業界内では常識」なのかもしれないが、外の世界はそうとは限らない。

FPのように医療をしたい。そう思い続けて感染症屋をやっている。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[ファイナンシャルプランナー][顧客の夢

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