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【識者の眼】「Onco-Xへの期待(後編)」清水千佳子

No.5237 (2024年09月07日発行) P.66

清水千佳子 (国立国際医療研究センター病院がん総合診療センター/乳腺・腫瘍内科診療科長)

登録日: 2024-08-26

最終更新日: 2024-08-26

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前稿(No.5236)では、腫瘍学(Oncology)と他の専門領域との学際的な連携の場(Onco-X)が増えてきていること、その背景には、がんの治療を終えたあとも長期的に健康を維持できるよう配慮すべきとの気運の高まりがあることを述べた。

欧州では、欧州心臓病学会(ESC)のタスクフォースが欧州血液学会や欧州放射線治療・腫瘍学会、国際循環器腫瘍学会(ICOS)との連携のもと、2022年に腫瘍循環器ガイドライン(ESC/ICOSガイドライン)を公表している1)。このESC/ICOSガイドラインは100ページを超える大作で、272項目に上る項目に細やかな指針を与えていることに驚かされるが、それ以上に素晴らしいと思うのは、患者への情報提供やコミュニケーション、自己管理に向けた患者教育に言及し、患者アウトカムが患者と医療者の協働なしに向上しないことを明示している点である。

心血管疾患のリスクを下げるために患者自身の一次予防が重要であることは循環器の領域では当たり前のことかもしれないが、がん医療のガイドラインに患者教育やコミュニケーションの重要性が言及されていることは稀であり、ESC/ICOSガイドラインを実装していく過程で、がん医療における意思決定や患者参画のあり方に変化がもたらされる可能性がある。

Onco-Xは、リアルワールドのニーズから始まるため、患者への還元を志向する。疾患の本態を解明し、科学的知見をもとに治療法を開発することをめざす主流から見ると、泥臭くニッチな領域に映るかもしれない。しかし、人間が複雑系でしか存在しえない以上、複雑系を扱うOnco-Xの中にこそ、解き明かすべき重要な真実が隠されているかもしれない。

また、パワーゲームに勝つことではなくて患者にとっての最善をめざすためだろうか、Onco-Xの対話には、ロジックと謙虚さ、純粋な好奇心と他者に対するリスペクトがもたらす、清々しさと前向きな明るさがある。Onco-Xの取り組みが、医療に新しい風を吹き込んでくれるのではないかと、密かに期待している。

【文献】

1)Lyon AR, et al:Eur Heart J. 2022;43(41):4229–361.

清水千佳子(国立国際医療研究センター病院がん総合診療センター/乳腺・腫瘍内科診療科長)[がん治療][新しい風]

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