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【識者の眼】「地域包括ケア時代の高齢者就労とその多面的意義⑧─高年齢労働者の安全管理」藤原佳典

No.5242 (2024年10月12日発行) P.64

藤原佳典 (東京都健康長寿医療センター研究所副所長)

登録日: 2024-09-24

最終更新日: 2024-09-24

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これまでの連載においては、高年齢者の就業に対して、労働力人口の減少に対する社会経済的な要請に加えて、本人の生きがいや健康維持、さらには職場の現役職員への効果など多面的な好影響について紹介してきた。その一方で、医療従事者としては労災発生率が高年齢者ほど高いことにも留意しなければいけない。厚生労働省の労働者死傷病報告などをもとに、2023年の「労働者1000人当たりの労災発生率」を見ると、最も低い30〜34歳の男性1.93人、女性0.98人に対して、60〜64歳は男女とも3.5人以上、65歳以上では4人以上に及んでいる。また、「労災による休業見込み期間」は、年齢が上がるに従い長くなる傾向を示している。

さらに、労災について、どのような原因が多いのかの分析結果によると、男性では脚立などからの「墜落・転落」において、60歳以上の労働者1000人当たりの労災発生率が0.91人であるのに対して、20歳代の若年労働者では0.26人であり約3.5倍の差がみられた。女性では「転倒による骨折等」において、60歳以上の労災発生率は2.41人であり、20歳代の0.16人の約15.1倍に上った。このように墜落・転落や転倒の防止対策は特に重要な課題と言える。こうした現状をふまえ、厚生労働省は2023年度からの5カ年計画「第14次労働災害防止計画」の中で、8つの重点対策事項の1つに「高年齢労働者の労働災害防止対策の推進」を明示して、2020年に策定した「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」をふまえた総合的な対策を各事業所に求めている。具体策としては、①安全衛生管理体制の確立、②職場環境の改善、③高年齢労働者の健康や体力の状況の把握、④高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応、⑤安全衛生教育、の5つが示されている。

しかしながら、エイジフレンドリーガイドラインの認知度は低いと言わざるをえない。2022年に行ったアンケート調査では、本ガイドラインを「知っている」と答えた事業所は17.9%と報告されている。

さらに、そのうち「対策を行っている」事業所は約60%で、全体の11%にすぎず、その対策内容も、定期健康診断が多い。職域の健康診断はいわゆる特定健診と同様に、生活習慣病の早期発見を主眼に置いているが、墜落・転落や転倒のような老年症候群を早期に検知するには不十分である。

次回では、高年齢者就業のメインストリームであるシルバー人材センターを対象に労災事故の実態や対策について紹介したい。

藤原佳典(東京都健康長寿医療センター研究所副所長)[高齢者就労][健康]

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