筋強直症候群の代表的疾患である筋強直性ジストロフィーは,骨格筋だけでなく,心筋・平滑筋,中枢神経系,内分泌系,眼など様々な臓器に障害をきたす常染色体顕性遺伝性疾患である。1型(DMPK遺伝子のCTG反復配列の異常伸長),2型〔CNBP(ZNF9)遺伝子のCCTG反復配列の異常伸長〕が同定されており,わが国での有病率は10万人当たり2.7~5.8と報告されている。日本ではほとんどが1型である。
筋強直現象(把握ミオトニー,叩打ミオトニー),特異的罹患筋分布(斧様顔貌,兎眼・口笛困難,頭部挙上困難,臥床からの起き上がり困難,ピンチ力低下,下垂足など),多臓器障害や家族歴から本疾患を疑う。臓器障害として,心伝導障害,認知機能障害,過眠,耐糖能異常,脂質異常,消化管機能障害,白内障,前頭部優位の脱毛などがある。針筋電図では,ミオトニー放電や刺入時活動増加がみられる。確定診断は遺伝学的解析で行われる。検査前後に遺伝カウンセリングを行うことが望まれる。
現時点で筋強直性ジストロフィーの根治療法は確立していない。筋強直症状(ミオトニア)に対し,メキシレチンの有効性が示されているが(わが国では保険適用外),催不整脈作用を有するため適応に注意する必要がある。
生命予後を左右する因子は,呼吸・嚥下障害,心臓障害であり,自覚症状の有無にかかわらず定期的に評価・検査を行うことが望まれる。呼吸筋障害による拘束性換気障害の進行に加え,中枢性の呼吸調節異常,歩行可能な比較的病早期から睡眠時呼吸障害を呈することが知られている。定期的に呼吸機能検査(坐位・臥位),動脈血液ガス分析,睡眠時の呼吸状態の評価を行う。適切な時期に非侵襲的人工呼吸療法(NIV)を導入することで,生命予後の改善が見込まれる。咀嚼嚥下・喉頭機能は早期から障害され,誤嚥リスクに加え固形物を丸飲みすることによる窒息リスクも高い。そのため,嚥下評価(嚥下造影・嚥下内視鏡検査)に加え,口腔ケア,食形態調整,摂食嚥下リハビリテーションなどを行う。心伝導障害,洞機能不全,頻脈性不整脈のリスクが高く,突然死との関連もあるため,定期的に12誘導心電図,ホルター心電図,経胸壁心エコーなどを行う。
また,腫瘍(悪性,良性)の頻度が高く,悪性腫瘍の発生率は一般人口の約2倍と推定されている。がん検診の重要性につき情報提供に努める。その他定期的な眼科検診,歯科受診や,内分泌系(耐糖能異常,脂質異常症)の評価を行う。下部消化管障害による便秘の合併頻度は高く,また時に巨大結腸や腸閉塞を呈することに留意する。
女性患者の妊娠時には母体の骨格筋症状が増悪することがある。切迫早産の管理で子宮収縮抑制薬を使用する場合,塩酸リトドリンでは横紋筋融解症に,硫酸マグネシウムでは呼吸抑制・筋力低下に注意する。術後に無気肺や誤嚥性肺炎といった呼吸器有害事象の頻度が高く,術前から呼吸器リハビリテーションを行うことが重要である。
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