株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

ルワンダにおけるマールブルグ病のアウトブレイク[感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(28)]

No.5244 (2024年10月26日発行) P.69

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

登録日: 2024-10-25

最終更新日: 2024-10-23

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

●マールブルグ病とは1)

マールブルグ病は,マールブルグウイルスによる重篤な感染症で,日本では1類感染症に指定されています。潜伏期間は約3~10日で,初期症状は発熱,頭痛,筋肉痛,皮膚発疹,咽頭炎などです。重症化すると,下痢や消化管出血がみられ,エボラ出血熱に似た症状を示します。ウイルスの感染は,感染者の血液や体液,排泄物,または性的接触を介して広がります。現在,特異的なワクチンや抗ウイルス薬は存在せず,治療は主に支持療法や対症療法に依存しています。日本国内ではこれまで報告例はありません。

●ルワンダにおけるアウトブレイクの発生2)3)

2024年9月27日,ルワンダ保健省はマールブルグ病の発生を発表しました。10月8日時点で,ルワンダ保健省によると,12人の死者を含む56人の感染者が確認されています。報告された症例の70%以上は首都キガリの医療従事者です。症例は国内の7地区で確認されており,約300人が接触者として追跡されていますが,接触者の中で症状を呈した者はおらず,観察期間も終了しています。しかし,引き続き接触者の調査は継続中です。また,感染の発生源や地理的な広がり,追加の疫学情報も調査されています。

ルワンダでのマールブルグ病の報告はこれが初めてですが,近隣のコンゴ民主共和国,ウガンダ,タンザニアなどでは過去にも報告例があります。特に2023年には赤道ギニアとタンザニアで流行が発生しました。また,アンゴラやケニアなどの他のアフリカ諸国でも過去に報告がありました。

●アウトブレイクに対する公衆衛生対応とリスク評価2)

ルワンダ政府と保健省は迅速に対応しました。具体的には,症例の早期発見を目的とした連絡窓口の公開,積極的な疫学調査と接触者追跡,疑い症例の隔離措置が含まれます。また,全医療施設で感染予防管理や水の衛生対策が強化され,リスクコミュニケーションも実施されました。WHOは検体輸送,検査キットや個人用保護具の供給,ワクチンや治療薬に関する情報提供を支援しています。

9月30日時点でのWHOのリスク評価は,以下になっています。

・国レベル:非常に高い

26例の確定例が確認され,うち70%以上が医療従事者。院内感染によるさらなる感染拡大の懸念あり。

・地域レベル:高い

コンゴ民主共和国,タンザニア,ウガンダとの国境に位置する地区で症例報告あり。首都に国際空港あり,東アフリカ近隣諸国への道路網あり。

・世界レベル:低い

接触者1例にベルギーへの旅行歴があったが,発症はなく,健康観察期間を終了している。


マールブルグ病はエボラ出血熱のように死亡率の高い感染症で,今回はルワンダの首都を中心に発生しているため,今後も感染拡大に注意が必要です。

【文献】

1)国立感染症研究所:マールブルグ病とは.(2024年10月2日アクセス)

2)WHO:Marburg virus disease – Rwanda.(2024年10月2日アクセス)

3)ルワンダ保健省:Rwanda Launches Vaccination Campaign Against Marburg Virus.(2024年10月10日アクセス)

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top