内科診療(もしくは救急外来)において,胸痛の患者さんをみたらまずは12誘導心電図を施行し,急性心筋梗塞(acute myocardial infarction;AMI)を見逃さないようにすることはよくご存知のことと思います。冠動脈支配領域に沿ったST上昇が見られれば,すぐに循環器内科医に相談し,緊急で冠動脈造影(いわゆる「緊カテ」)を施行するでしょう(図1)。
しかしAMIを代表とする急性冠症候群(acute coronary syndrome;ACS)の中には来院時の心電図でST-T変化を示さないことがあります。また,来院時に胸部症状が消失していることもありますし,心筋トロポニンなどの心筋逸脱酵素が上昇していないこともあります。胸痛などの胸部症状を主訴に救急外来を来院された患者さんにおいて,2.3%は実際には不安定狭心症(unstable angina;UA)だったのにもかかわらず,救急外来から帰宅となっていたという報告もあります1)。つまり,検査がすべて陰性でもACS(特にUA)が否定できないということになります。
実臨床では,ACSを疑った場合にはすぐに循環器内科医に相談することは当然かと思います。しかし,施設の規模や地域によって循環器内科へのアクセスは異なりますし,ACSを強くは疑わないものの完全に否定しきれないと全体の診療も方向性を見失いかねません。ACSに意識がいきすぎて,実際はまったく異なる疾患ということも十分にありえます。このコンテンツでは,循環器専門医向けではなく,あくまで非専門医が病歴と身体所見を中心に(心電図や心エコー図検査での詳細な読影に重きを置かず),外来でWalk in胸痛をどのようにマネジメントしたらよいのか(専門医はどのように考えているのか)を,診断最難関の1つであるUAを中心に解説します。