栗谷義樹 (地域医療連携推進法人日本海ヘルスケアネット代表理事)
登録日: 2024-12-03
2024年度一般会計予算総額は112兆円だが、歳入に占める公債金は35兆円、歳出に占める国債費は27兆円で、新たな借金が8兆円以上増えている。
9月初め、厚生労働省は2023年度医療費概算を公表した。それによれば、総額は47.3兆円、2022年度から2.9%(1.3兆円)増加し、団塊世代が75歳以上の後期高齢者になり始めて全体を押し上げたこともあり、3年連続で過去最高を更新した。一方、この春、内閣府は2060年度までの社会保障費と財政状況試算を公表した。
長期推計をまとめたのは初めてというが、これによると費用の対GDP割合は2040年度以降に急速に拡大するという。日本の高齢人口のピークは2043年とされ、その後、高齢者人口全体は減少しても、医療介護が必要な85歳以上人口は持続的に増えるため、医療費は今後さらに膨らんでいくとされている。
後期高齢者医療制度は現在、公費が5割、現役世代の支援金が4割、高齢者保険料で1割を賄っている。現役世代1人当たりが払う支援金は、制度創設の2008〜22年度にかけ7割増えたというが、医療保険の実効自己負担率は現役世代19%に対し、高齢者は10%を切って、支払う保険料の上昇は1人当たり2割増にとどまっている。
ここにきて政府は高齢化対策の中長期指針となる「高齢社会対策大綱」に、75歳以上後期高齢者の医療費の窓口負担拡大に向けた検討を行う方針を盛り込み、3割負担の対象範囲拡大が今後検討実施されていくことになるようだ。
また、後期高齢者の窓口負担は原則1割、一定所得がある人は2割、「現役並み」の所得がある人は3割とされている。現役世代は3割を負担しているが、「現役並み」の所得とは単身で年収約383万円以上を指し、全体の7%くらいしかいないらしいということを先日経済紙で初めて知った。
一方で、失われた30年と言われるこの間に日本の実質GDPは1.2倍とほとんど上昇がみられていない。いずれにせよ、わが国の医療介護提供体制の構造問題は、財源を抜きにした短期的な利害調整で先送りする状況にはないようで、業界全体がこれまでとまったく違うソーンに入ろうとしているように思える。
わが国において、先進国の標準医療を享受することが困難となるような貧困国家にならないことを切に願う。
栗谷義樹(地域医療連携推進法人日本海ヘルスケアネット代表理事)[医療介護提供体制][高齢社会対策大綱]