明らかな原因が特定できない顔面神経麻痺である。末梢性顔面神経麻痺の原因の中で最も頻度が高く,発生率は人口10万人当たり年20~40人とされる。多くは単純疱疹ウイルスの再活性化による神経炎が原因と考えられている。顔面神経は側頭骨内で細い骨管を走行しているため,神経浮腫が起こると絞扼・虚血をきたしやすく,髄鞘や軸索の変性が進行する。早期に治療を行うことができた場合は90%前後の高い治癒率が得られるが,高度変性に至ると高率に後遺症を生じる。
視診にて顔面筋の動きを評価し,末梢性顔面神経麻痺の診断をする。
続いて,Hunt症候群(Ramsay Hunt症候群)を疑う所見である耳痛,耳介や咽頭粘膜の帯状疱疹,難聴,めまい,嚥下・構音障害などを確認する。検査としては,ウイルス抗体価〔特に抗水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)抗体価〕や聴力,眼振を確認することが望ましい。耳下腺腫瘍,側頭骨内・小脳橋角部の病変を除外するためには,MRIは必須である。
重症度の決定には,顔面神経麻痺スコア(柳原法)に加え,誘発筋電図検査(ENoG)で評価することが有用である。
治療の上で問題となるのは,顔面神経麻痺を認めてから遅れて帯状疱疹や第Ⅷ脳神経症状が発現するHunt症候群例や,帯状疱疹を欠く不全型Hunt症候群例で,これらは初診時にはベル麻痺と診断される。さらに,上記所見が経過中ずっと認められないzoster sine herpete(ZSH)も存在する。VZVが関連している病態は,ベル麻痺に比べ重症例が多く,治療強度を上げる必要があり,抗体価測定も推奨される。しかし,治療開始時点で不全型Hunt症候群やZSHを否定することは不可能であり,事実,日常診療でベル麻痺と診断されている例の8~19%がZSHである1)。
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