日本脳炎は,主にコガタアカイエカによって媒介される日本脳炎ウイルスにより,ヒトに重篤な急性脳炎を起こすウイルス感染症です。日本脳炎ウイルスはフラビウイルス科に属するウイルスで,1935年にヒトの感染脳から初めて分離されました。極東〜東南アジア・南アジアにかけて広く分布しており,世界的には年間3万〜4万人の日本脳炎患者の報告があります。
潜伏期は6〜16日間で,典型的な症例では,数日間の高熱,頭痛,悪心,嘔吐,めまいなどで発病します。これらに引き続き急激に,髄膜脳炎症状(項部硬直,光線過敏,意識障害,脳神経症状,不随意運動,振戦,麻痺,病的反射など)が現れます。
検査所見では,末梢血白血球の上昇を認め,髄液では圧が上昇し,細胞数は初期には多核球優位,その後リンパ球優位となり,10〜500程度に上昇することが多いです。蛋白は50〜100mg/dL程度の軽度の上昇がみられます。死亡率は20〜40%で,小児や高齢者でリスクが高くなります。また,精神神経学的後遺症は生存者の45〜70%に残ります。
診断は血清抗体価になります。残念ながら,特異的な治療法はなく対症療法が中心となり,特に髄膜脳炎管理が重要になります。予防の中心は蚊の対策と,ワクチンによる予防接種です
感染症法上,四類感染症(全数把握対象)に定められており,診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出ることが義務づけられています。
2024年11月,インドのデリーで約13年ぶりとなる日本脳炎の報告がありました。患者は西デリーのビンダプールに住む72歳の男性で,基礎疾患に糖尿病や冠動脈疾患がありました。11月3日に胸痛を訴えてAll India Institute of Medical Sciences(AIIMS)に入院し,日本脳炎と診断されました。デリーでの日本脳炎の報告は,14人が感染した2011年以来でした。
サーベイランス・プログラムのデータによると,2024 年には24の州と連邦直轄領から合計1548件の日本脳炎が報告されました。アッサム州だけでも925件の症例があり,日本脳炎が広く流行していることが示唆されています。
この現状を受け,デリー市は封じ込め対策に着手し,すべての地区保健担当官と疫学者に対し,日本脳炎を媒介する蚊の対策を強化するよう指示しました。具体的には,蚊の幼虫の発生源の減少や,日本脳炎の予防と制御のための啓発キャンペーンなど,地域社会に根ざした取り組みです。
また医療専門家たちは,子どもたちへの2回の日本脳炎ワクチン接種と,蚊帳や蚊取り線香などを使って蚊に刺されるのを防ぐことを呼びかけています。蚊の繁殖を防ぐため,身の回りを清潔に保つこと,頭痛を伴う原因不明の発熱の場合は医師に相談するようにも呼びかけています。
日本においても,ワクチン未接種者を中心に発生報告があるため,注視していきましょう!
【文献】
1)国立感染症研究所:日本脳炎とは. (2024年12月5日アクセス)
2)International Business Times:Delhi Reports First Japanese Encephalitis Case in 13 Years: What Is This Deadly Viral Brain Infection. (2024年12月5日アクセス)